『恋がしたい恋がしたい恋がしたい』第7話(2001)

この回がオンエアされた2001年の8月12日というと、なにをして過ごしていたのか、
すでに記憶にありませんが、
その1ヵ月後の9月11日のことなら、みんなが鮮烈におぼえているはず。
テレビが、とんでもない光景を映してしまった日でした。

いや、むしろ、あの光景があまりに常軌を逸していたので、
その日の夜までにどんな時間をどんな思いで過ごしていたのか、
ホワイトアウトされたみたいに何も思い出せない。
あの瞬間を境に世界が変わった、というより、
覆われていたものが姿を現わした衝撃のほうが大きかった。

9月16日に放送終了したこのドラマを、私は当時見ていませんでしたが、
あのホワイトアウトの向こうに目を細めると微かに浮き上がる残像って、
こういう感じかもしれない。
80年代があって、90年代になって、景気が後退する中で新しいメディアと関わらざるを得なくなって、
それがあっというまに日常生活に入り込んできて、
どんより曇ってはいるんだけど、どしゃぶりにはならないまま、次の晴れ間までお茶でも飲んでやり過ごす、
そんな、気楽ではないけれど、まだどこか保留がきくとでもいうか。

と、現在の気分から顧みた当時のことはこれくらいにしといて。
あの、このサイト、洞口依子さんのファンサイトなんですよ。
なので、この回、第7話での依子さんについて書きます。

それぞれ世代も立場もちがう人物たちが、恋愛に四苦八苦する姿を描いたドラマで、
あまりに人数が多くて、しかも当時見てなかったので説明はパス。
ただ、菅野美穂、猪俣ユキ、洞口依子、それに『ケイゾク』も含めると渡部篤郎と、
どこかで当時のJホラー、サイコ・サスペンスに関わっていた俳優陣が東芝日曜劇場に
キャスティングされているあたりにも、べつの視点から2001年を感じます。

依子さんの役は、及川光博さん演じるベストセラー作家兼タレント(兼ミッチー、というべきか)の
マンションを訪れる女。
ドアを開けられて、「来ちゃったぁ」と入ってくる登場から、招かれざる客であることがわかります。
ちょうど『ヴィラ・デル・チネマ』に大杉蓮さんと出演したときと同じ、センターパートの髪型です、
って、ふつう、比較が逆なんでしょうが、ワタシの場合、規準がそっちになっちゃいますね。

執筆もはかどらず、露骨に迷惑そうなミッチーは彼女を中に入れると、
「これきりにしてくれ」と、彼女に札束の入った封筒を渡します。
豪奢なマンションの一室でミッチーが洞口依子に手切れ金を渡す、の図。

と、じつはここに裏があったんですね。
彼女はミッチーの死んだ親友の恋人だったんです。
ミッチーは亡き友が遺した小説のアイデア・ノートから剽窃し、ベスト・セラーを書き続けてきた。
依子さんはそのことをネタに強請り続けてきたのでした。

ミッチーとヨーリーから、誰もが結びつけるような関係ではなかったということです。
しかも、依子さんの役は、恋人に死なれた女性です。
同情できる点はあるんでしょうが、それはまったく説明されません。
依子さんもヒールに徹し、厭な女を演じています。

彼女の内面的な心の動きは、まったく説明されていないのだけど、
最初に彼女がミッチーの部屋を訪れるときの、ドアからゆっくり入っていくペースや、
それとはまったく逆にミッチーの仕事中のPCを覗き込む無遠慮さなどを、
最後になって真相がわかったとき、見る側の想像力が勝手にあれこれ解析再生できます。
恋人の死に一度は泣き崩れて、ミッチーも同情を寄せていたであろうことや、
自分の亡き恋人の夢を勝手にくすねて大成した男を、最初は純粋に許せなかったであろうこと、
それが口止めに金を受け取るうち、彼女自身の感覚や理性が化けたであろうことを、
こうやって、視聴者に想像させてくれるあそび(スペース)が、いいです。

とくに、ミッチーの元恋人で、いまだにどこか心に引っかかりを残している水野美紀さんが、
ほぼ同じ順序で彼の部屋を訪れて、同じように(こちらは荒れた)PC卓を見て、
彼の弱さに気持ちをぐらつかせていく展開への、ネガのような印象として残ります。
演じるキャラクターを突き放したときの、依子さんのハマりかたが光る一編ですね。
こういう、心底冷えた役を救わないまま演じる依子さんも、また見てみたい。

そういえば、スタッフ・ロールのところで、依子さんは藤木孝さんと名前が並んでるんですよね。
藤木さんもカッコいいですよねぇ。 悪の華、です。
ミッチーのファンは、藤木さんの若い頃もぜひ見てください。何歳なんだ、ワタシは(笑)

このドラマのタイトルは傑作ですよね。
トレンディ・ドラマあたりから興ったある時代の流れを、究極のひとことで持って〆た観さえあります。
要するに、みんな、これだろ?って!
やっぱり、2001年夏という断崖が呼んだ、のかな・・・


遊川和彦 脚本
片山修  演出
八木康夫 プロデュース

2001年8月12日 21:00〜21:54 
TBS系列 「東芝日曜劇場」枠にて放送

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