『遠山金志郎美容室 第5話 失恋・・・金さん絶叫』(1994)

(当サイト「洞口日和」は、洞口依子さんを応援するサイトです。
この解説は、依子さんを中心に語るもので、いわゆる作品解説とは趣旨が異なります。)

すごくおもしろい。
洞口依子研究所としては、こういう作品にめぐりあえるのが楽しみなんです。

『勝手にしやがれ!!』シリーズでの羽田由美子は、いつごろから依子さんに降臨したのか。
もちろん、黒沢監督が同作品のキャメラをまわした1995年からなんですが、
物の始まりが1ならば国の始まりは大和の国、島の始まりは淡路島。
イルカに逢える日』 (1994)の依子さんには、すでに由美子の萌芽がうかがえますし、
やはり同じ年にオンエアとなったこの『遠山金志郎美容室』では、よりはっきりと、
由美子へ向かう轍が見えるんですね。

依子さんの役柄は、松岡俊介さんの恋人、麻由子です。
ニューヨーク帰りの通訳家。
6つ年上で、バツイチ、2歳の女の子がいる設定。
またこの女の子の目が子供の頃の依子さんによく似ていたりするんですが、それはさておき。

松岡俊介さんの実家が美容室で、下町の、縁側がある一軒家。
そこにニューヨーク帰りのワケありの依子さんがやってきます。
弟の彼女が来るというので大慌てでもてなす姉たちが作ったのが、肉じゃがやお刺身。
それを勧められて、「アタシ、こういうのは、ちょっと…」なんて言ったり、
「アタシ、正座って苦手…」と足をくずしたりして、まるで寅さんに出てくる今どきの女性像。
迎える女性陣は呆れたりムッとしたりするんですが、
でも彼女たちだって夏木マリさんにかたせ梨乃さんなんですよね。 
「でも彼女たちだって」って、意味わからないですけど、わかってください。

「美容院のほうを見れば?」と案内されて、恋人の松岡さんにシャンプーをしてもらうシーン。
二人きりになって、顔にかけたタオルを自分でずらすと、依子さんの唇があらわれます。
ここ、クロレッツのCMを彷彿させるすごい磁力です。ドキッとします。
当然、彼もその磁力に勝てませんでした。

だいじな弟とは釣り合わないから別れてもらおうと、姉さんたちが彼女のマンションを訪れます。
ここからです。 このシーンはものすごくおもしろい。
手前に姉さんたちがソファに座って、その向こうに依子さんがいます。
タバコに火をつけて、奥のテーブルへゆっくり歩んでいったり、途中で振り向いたりします。
ここが、由美子みたいです。
狡猾さをにじませたようなしゃべりかたも由美子っぽいし、
なんと言っても恋人(浩一)のことを「浩ちゃん」と呼ぶのが、「耕ちゃん」に聞こえるのは、
言われなくともワタシの耳がおかしいか頭がおかしい。

最初の段階ではカリカチュアされすぎに思えた彼女の像が、
食えない女のつかみどころのなさが加わって、急にいきいきと輝きだします。
このドラマは全体に室内場面が多く、最後の松岡俊介さんと西田敏行さんが二人で
彼女の部屋で飲み明かす場面など、俳優の持ち味と座ってる絵がとても魅力ありまして、
このマンションでの依子さんもすごくいいです。

後半、結婚に逸る彼となだめるように向き合うのもやはりこの部屋。
洗い物から、彼の胸に顔をうずめる動作への移行もナチュラルで、
前半よりずっと控えめなメイクで、横を向いた依子さんの鼻のラインの可愛さが、
年下の彼が年上の人に抱く庇護欲のポイントをズバリ言い得ているようでおもしろいです。
怒って飛び出した彼を窓から見送る彼女の顔が、赤い手すりの上に浮かぶカットも印象に残ります。

さらに別れ話のあった夜が明けて、彼女を訪ねた西田さんとの場面。
二日酔のロレツの怪しい口調で「ニューヨークで、ワタシは二股かけてたのよ」と言って、
二本指を立ててそれに軽く口をつけてから前に出す仕種が、なんだかくすぐったくて可笑しい。
そこから急にヒステリーを起こし、物を投げて当り散らすコミカルな依子さん、
こういうのもまた見てみたいです。

『イルカに逢える日』では、その蒲柳の佇まいと羽田由美子的なものが結びついていましたが、
ここでは男の純情と対称となった女の怖さと結びついています。
これって、けっこうおもしろい発見かも。
もっとも、由美子に意味なんか通らないのは重々承知のうえで。


1994年8月6日(土) 
日本テレビ系列にて21:00〜21:54放送
水田伸生 演出

「この人を見よ!」へ                        

←Home (洞口日和)