第9回 Antoine(アントワン)さん (France)

「パイティティの音楽からは、ユーモアが聞こえてきます」

2009年のジェリー・ホワイトさんに続く、海外ファンとの対談です。しかも今回は、パイティティのファン!
フランス東部のロレーヌ地方に住むアントワンさん。
熱心なウクレレ愛好家でプラスティック製ウクレレについてのHPを持ち(http://www.chordmaster.org)、またギリシャ音楽の演奏家でもあります。
ウクレレのコレクションはHPにも公開されており、その一部はこんな感じ!

(クリックで画像拡大)

そういえば、フランスは「ワールド・ミュージック」の発信地でもあります。
彼の地で様々な音楽に興味を広げられたアントワンさんの心をパイティティがどうとらえたのか、
フランスのウクレレ事情なども垣間見せてもらいながら、メールで何日もかけてお話をうかがいました。
お答えの端々に、さすがフランスというか、ちょっとメモしておきたくなるような言葉が光ります。
では、
Je Vous Présente Antoine (アントワンさんを紹介します)!

原文はこちら(私はフランス語がまったくわからないので、英語です)



アントワンさん、こんにちは。 まず、洞口依子さんとパイティティのファンになったいきさつを聞かせていただけますか?

Antoine 
こんにちは! それがまったくの偶然からなんですよ。 
YouTubeでプラスティック製のウクレレの動画を検索していたときに、「ピクニック」のPVを見つけたんです。 
その場で驚きました!日本の素晴らしい文化については本や映画や建築で少し知ってはいました。 
現代の日本にどれほど驚くべき、才能ある人たちがいるのかということもわかっていますが、それでも私にとって文字通り別世界を見つけたようなものでした! 
ほどなくして、洞口依子さんの魅力と美しさ、それに彼女の声のとりこになりました。
この動画をループにして再生し、ほかの動画やインフォをチェックしようと思いました。たぶん、ネットで手に入る動画はすべて見たと思います。
それで彼女が有名な女優だとわかり・・・DVDもあれこれ注文しました!

えっ!ネットで手に入る動画ぜんぶですか! よければお好きな曲を教えていただけますか?

Antoine 
ひょっとしたら何件か見逃したのもあるかもしれませんが、依子さんとパイティティの名で検索をかけました。
それに、依子さんの(ロンドンの楽器屋などでの)普段の暮らしを撮った動画もぜんぶ見ましたよ。
どれがいちばん好きな曲かとなると難しいですね。私はパイティティの音楽の多様性が大好きなので。
とにかく、最初に見た「ピクニック」がとても気に入ってますね。あの動画で、曲は人を楽しくさせるし、映像は『不思議の国のアリス』みたいにまばゆいほどカラフルでシュールリアリスティックです。
彼らのCDに入っている曲はぜんぶ素晴らしいですし、私はライヴ動画も大好きです。「よりパンクでスカな」とでもいうか、「パイク」のような曲も。
ビデオクリップを見ての最初の印象は、「デリシャスな」(管理人注「胸のすくような、痛快な」というニュアンスもある)ミックスだなというものでした。 
パイティティのクリエイティヴィティに大喜びしましたし、メンバーの才能にも感動しました。依子さんの歌は後光がさすほど輝いていますし、彼女と石田さんのウクレレには見事なスタイルがあります。
おもちゃ屋さんで目や耳をいっぱいに広げてワクワクしている子供のよう!というのが、私の第一印象ですね。

ところで、日本のミュージシャンや映画では、どんなものがお好きですか?

Antoine 
日本の音楽については、本当に古い時代のものしか知りません。
日本の伝統的な楽器が好きです。琴や三味線のような。能楽器のCDを何枚か持っていて、これはとても好きです。『世阿弥伝書』を読んで買ったものです。また、舞踏関連の音楽も知っています。
今の日本の音楽のこととなると、あまりよく知りません。だからパイティティと洞口依子さんの音楽を発見して強い印象を受けたのです。

日本映画では、好きな映像作家がたくさんいますよ。
古典的な監督でいえば小津が最も好きです。また小林正樹、勅使河原宏、黒澤明、溝口健二なども好きです。それから、『ゴジラ』などのキッチュな日本映画も好んで見ます。
いまの日本映画では、なんと言っても北野武です。ほかの監督の作品でも、『バトル・ロワイヤル』『鉄男』などなど・・・日本映画を見てがっかりしたことはないですね。
ほんとうに好きです。 古いものでも新しいアンダーグラウンドな作品でも。
日本の文学やグラフィック・アート、建築も好きです(私は建築家なんです)。それに日本食もね!

あなたはウクレレを演奏されるんですよね? どんな感じでウクレレに惹かれていったのですか?

Antoine 
えぇ、ウクレレを弾きます。
弦楽器を(独学で)学んでいったのは・・・34年前、12歳のときです。 
まずフォーク・ギター、それからスライド・ギターやエレクトリック・ギター、そしてギリシャや東洋の楽器(ブズーキやウード)、そしてウクレレにたどりつきました。 
バグラマ
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:GreekBaglama1.jpgという非常に小さなギリシャの楽器も演奏するのですが、そういう小さな楽器を西洋の音楽に応用してみたくなったんです。 それでウクレレを弾いてみて、すぐにこの楽器に恋してしまいました。それほど楽しい楽器ですよ!
やがてプラスティック製のウクレレに興味を持つようになり、収集をするようにもなって、ついにはプラスティック・ウクレレのためのサイトを立ち上げたんです(
http://www.chordmaster.org)。
こんな感じで、私の道が依子さんの世界に重なったわけです。マカフェリの青や緑のアイランダー・ウクレレでいっぱいの世界にね!

フランスでのウクレレの人気はどうなんですか?

Antoine 
ウクレレがフランスに古くからあるものではないのは確かですね。でもここ数年ですが、人気という点ではかなり広がってきています。
これはまちがいなく世界中で起きている「ウクレレ第3の波」と関係がありますし、TVに出てくる若いシンガーたちのおかげでもあります。 
それに、精力的に活動しているウクレレ愛好家のグループがもう何年も定期的に作品を作り続けているおかげです。
とくに、有名なウクレレ奏法の著者でミュージシャンで史学者であり、かつ人気の高いウクレレ・フレンチ・フォーラム
http://www.ukulele.fr/dc/の創設者シリル・ルフェーブル(Cyril Lefebvre)がそうです。

パイティティの音楽はハワイアンだけではなくいろんな音楽をブレンドしています。 それについては?

Antoine 
素晴らしいことだと思いますよ! 
たしかにウクレレはハワイアン・ミュージックと切り離せないものですが、いまウクレレから見えるようになったのは、ウクレレ自体が持っている力や深さが世界に通用するということでもあります。
「パイティティ」、この名前は私の知るかぎりハワイ語でも日本語でもなく、古代の伝説上のインカ都市に由来するものですね。 
このバンド名は、言葉の響きが美しいということ以外にも、とてもうまく選んだと思います。
なぜなら、さまざまな種類の宝がパイティティというバンドの世界で発見されるよ、ということでもあるからです。
パイティティの動画を見たり音楽を聴いたりすれば、このバンドには宝や希望が山ほどあることがわかります。それをたった一つの音楽スタイルに閉じ込めておこうなんて思いますか? 息がつまりそうな小さな箱の中に?まさか。彼らの音楽は色とりどりの花火になって打ち上げられるべきですよ!

現在あなたが住んでいる地域のことを訊いてもいいですか?

Antoine 
フランス東部のロレーヌ地方にあるナンシーという街(wikipedia)です

ナンシーは人口10万の小さな街で、ルイ15世の義父にあたるスタニスラス王が作ったスタニスラス広場という有名な美しいピアッツァがあります。 
ナンシーはアール・ヌーヴォーでも知られており、「エコール・ド・ナンシー」(ナンシー派)はここに誕生したものです(管理人注・ガラス工芸家のエミール・ガレは、ここの出身)
それ以外ではナンシーはとくに大きなムーヴメントも少ない静かな所ですよ。
私が住んでいるのはナンシーの上のほうにある田舎に近いところで、小さな家で猫のPatafixと一緒に住んでいます。15年間、パリに住んでいたこともあります。

パリでの生活にはどう影響されましたか?

Antoine 
パリでの15年間に、私はレベティコというギリシャの音楽に深く関わっていました。
ギリシャ人ではない私にとって、パリはギリシャ人の人たちやそこに住むギリシャのミュージシャンたちに会いやすくしてくれたのです。 
ギリシャにはウード1本持って半年間旅をしたこともあるんです。

あなたを音楽の最初のステップからほかの音楽に動かしたのはなんだったのですか? はじめの段階ではブルースだったのではないかと思うんですが。

Antoine 
えぇ、ブルースは大好きでした。それもあります。 
私はバッハが集大成した「平均律」よりも東洋の音階やハーモニーに惹かれていったんです。 
私の父はバロック音楽の熱心なリスナーで、子供の頃の私は父の聴いているハープシコードを聞いていました。
バロックのハープシコードは調律がピアノとはちがいます。 さまざまな音階やモード(旋法)に惹かれる私の興味はここが始まりだと思っています。
ギターを始めるようになって、フォークやブルースを弾いていて、チューニングの種類が少ないように思いました。そこで東洋の音楽に惹かれていったわけです。
というわけで、あなたの質問にもっと手短に答えるなら、私の興味をさまざまな楽器に切り替えたのは、東洋のモード(旋法)の持っている魅力ということになります。

とても興味深いです。 お話から私が大いに思い浮かべるのは、あなたもご存知でしょうが、元リトル・フィートのスライド・ギタリストで、偉大な故・ローウェル・ジョージのことです。 彼もギタリストとしてのキャリアの前に、シタールや尺八を学んで、そこで東洋音階に惹かれていったんですよね。

Antoine 
そうです、ローウェル・ジョージ、知っていますよ! 
たしかに、スライド・ギターと東洋音階は関わりが深いですね。
スライドでは、正確な音からその付近にある「間違って」いない音へ引きずっていき、そこになにかしらを表すような色彩をつけることができます。ある感情をそこに加えることができるんですね。
私にとって、ボトルネックを使うことが東洋音楽への架け橋になったと思います。

あなたが音楽人生で尊敬してきたミュージシャンは誰ですか?

Antoine 
私はテクニシャンを「尊敬」し、深い心を持ったミュージシャンを「愛」しています。
ギターを始めた頃に聴いていたのはニール・ヤングです。いまでも大好きです。
もちろんジミ・ヘンドリクス、デイヴィッド・ギルモア、ジミー・ペイジ、それから素晴らしく繊細なギターを弾くロドルフ・ブルジェ、古いブルースマン、アインシュツルツェンデ・ノイバウテンなどの現代のミュージシャン。
ギリシャの「レベティコ」ではMarkos Vamvakaris, Anestis Delias, Yovan Tsaous, Giorgos Batis・・・
私がウクレレの弾き方を大いに学んだのはジョージ・フォーンビィです。彼も偉大な心を持ったミュージシャンですね。
この質問は難しすぎますね。何ページだって続けられますよ。

パイティティの石田さんはもともとイギリスのハード/ プログレッシヴ・ロックのファンでした。日本では、ギターを弾いて離さないような男の子のことを「ギター小僧」と言うんですが、彼はその「ギター小僧」だったそうです。
あなたは石田さんのウクレレを弾く姿を見て、親近感をおぼえたりしますか?

Antoine 
オー、イエス!ロックンロールから学んだものは決して失われないと私は思っています。ほかの楽器を弾くときでも、ロックのスピリットはそこにあるんです。
今でもおぼえているのは、私がブズーキで非常に古いギリシャの歌を演奏していたとき、ギリシャ人の友人が私に言うんですよ。
「ヘイ、アントワン! きみはまるでロックンロールを弾くみたいにプレイしてたよ!」
石田さんがウクレレを弾くとき、ときどきロックンロールの素養や経験からダイレクトに来ているようなリズムの感覚や指使いなどを見せますね。

石田さんは「ギター小僧」でしたし、洞口依子さんの音楽生活はビートルズから始まっています。そんな彼らが、自分たちのやりかたで、現在こうしてウクレレで音楽を作っているのって、素晴らしいことだと思いませんか??

Antoine 
そのとおり、素晴らしいですね!2人が独自に音楽的な成熟を手にしたという証しでしょう。 
(ビートルズも、もちろん)すばらしい音楽の影響が充分に自分たちのものとして消化されて、自分自身のソウルと現代的な要素が加わらなければ新しい素敵な音楽は生まれません。
ウクレレについても、単なる小さなだけの楽器だとは思いません。いまや3回目の全盛期を迎えていますし、今こそみんながウクレレは単なるおもちゃではないとわかる時だと思います。

洞口依子さんも石田さんも、どちらもヨーロッパ文化、音楽や映画に強い影響を受けています。依子さんは17歳の頃にアンナ・カリーナにあこがれていたとよく書かれていますし、石田さんはかつてイタリアで美術を学ばれたりして、彼は「画伯」というニックネームで呼ばれています。
パイティティの音楽に、そうした彼らのヨーロッパ的なものへの憧れを感じますか?
 
Antoine 
もちろんパイティティの音に西洋的な影響を感じますよ。ただ、どこがアメリカ的ではなくヨーロッパ的なものだと言えるでしょうね。
軽妙さ、にあるんじゃないでしょうか。
アメリカの文化はシリアスなものです。私は、ヨーロッパの文化はもっと軽妙なものだと考えています。それは、「遊び」「冗談」ということをおそれず、そこに「2個めの度合い」(the second degree) を挿んでおくという意味です。
フランスではこんな言い方をすることがあります。 
「私はまじめにやっているが、自分をまじめな人間だとは思っていない」。
こういう「おだやかな遊び」の感覚、この軽妙さがパイティティの音楽に感じ取れます。
彼らはプロ意識と、心と、腕前で、真剣にやっている。いっぽうで、本当に愉快で楽しいことを忘れないでいる。(彼らの曲名にあるヨーロッパ的な影響については言うまでもないでしょう)

パイティティのユーモアのセンスについてはどう思われますか? 「ピクニック」のPVを『不思議の国のアリス』に例えられたように、パイティティの音楽や空気に特徴的なユーモアのセンスがあると思いますか?

Antoine 
まちがいなくあります!前の質問で私が言おうとしていたのはそういうことなんです。
ユーモアのセンスが明らかに見て取れるPVのイメージだけでなく、彼らの音楽からもそうです、ユーモアが聞こえてきます。
それは軽快なメロディーやアレンジの中に蒸留していると思います。そのすべてが、繰り返しますが、素晴らしいプロフェッショナリズムを成していると思います。 
それが音楽のスキル、才能、素養、メロディーの軽快さ、そしてシュールリアリスティックな設定をつないでいるのかもしれませんね。 
そこから彼らのユーモアが生み出されるんだと思うんです。

(2010年9月 メールでのインタビュー)
 


(追記 2010/9/29 アントワンさんに『ウクレレ PAITITI THE MOVIE』のDVDをお送りしたところ、リージョンコードの影響しないPCのアプリで視聴され、すぐにこんなメッセージをいただきました)

『ウクレレ PAITITI THE MOVIE』はとても楽しかったです!最高!やってくれましたね!
原口監督は、パイテイティのこれまでとクリップ、インタビュー、コンサート、アニメ、そしてオフの姿をじつに見事にミックスされています。
見ているあいだは最高のひとときでした。
私は日本語がわからないのですが(友達が通訳してくれることになっています)、「ウクレレ」という言葉はいつでも聞き取れました。
YouTubeですでに見ていた映像もありましたが、この映画では高音質と高画質で、私には新鮮でした。
美しい映像---たとえば、マーティンのウクレレが出てきて、依子さんの周りをキャメラがまわってゆくシーン---と愉快なシーンが混ぜ合わさり、全体が「パイティティ・エアラインズ」に捧げられているようでした。
パイティティのメンバーの生きる力と喜びでいっぱいの姿を見るのも楽しいです。彼らはクールな人たちのようですね。
繰り返しますが、私は映画全体がとてもバランスよくしかも楽しさいっぱいで、情報もいっぱい(日本語が話せる人にはまちがいなく一層、ですね。笑)だと思いました。
モザイクのようにバラバラの部分が合わさったパイティティの全体像を見せてくれて、私にはジグソーパズルを再現していくようでした。
この映画はパイティティが試すさまざまなやり方やいろいろな個性と、それを超えて一貫して持っているものがなにか、明快にわからせてくれます。
私たちは、人生を愛し、楽しむことを愛し、音楽を愛し、美しいものをいとおしく思っています。
ドウモアリガトウ!

追伸 私の猫のパタフィスは「チージーくん」ウクレレが大好きです。それを食べている夢を見ています。
 


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