十津川警部シリーズ39「飛騨高山に消えた女」

(当サイト「洞口日和」は、洞口依子さんのファンサイトです。
この解説はネタバレを含みます。再放送の機会を楽しみにされているかたは、ご注意ください)

渡り番頭・鏡善太郎の推理 燃える夜神楽殺人事件』などで依子さんと組んだ油谷誠至監督の演出。

十津川警部ものですが、実質的な主役は伊東四朗さん演ずるベテラン刑事で、
事故に遭って休暇を命じられた彼が、飛騨高山の町で、自分に救急車を手配してくれた女性と偶然再会します。
この女性が依子さん。

以前、ある2時間サスペンスのファンサイトで、「この人が出てきたら、ほぼ犯人」というランキングに、
洞口依子さんが2位だったかに挙げられていました。
そういう興味で見ているとき、「あれ?今回は犯人じゃないのかも?」と疑惑の目(この場合は逆か!)を
彼女に向けるのは、どんなきっかけでしょうか。

この『飛騨高山に消えた女』では、車と接触して倒れた伊東四朗さんのもとに、べつの車から降りて、
「大丈夫ですか?」と声をかけて登場します。
伊東刑事は彼女の顔を見ながら気を失っていきます。薄れてゆく彼の視界のなか、依子さんの顔にも霞がかかる。
これが、まず怪しい。
病室で目覚めた伊東さんは、彼女が救急車を手配し、名前も告げずに立ち去ったことを知ります。
ほぼ間違いなく、この段階で洞口依子さんは視聴者にマークされています。

次に彼女が現れるのは刑事が休暇に訪れた高山の町です。
趣のある古い町を伊東さんがのんびりと土産物屋などを冷やかしていると、橋の上でスケッチをしている女性。
これは罠だ、彼女は刑事が立ち寄る先を知って、なにごとかの企みのもとに、偶然を装ってそこにいたのだ、
そんな偶然は2時間サスペンス的にはアリなのだから、きっとそうにちがいない、と思います。

依子さんが絵を描いているという設定は、2007年にオンエアされた
『混浴露天風呂連続殺人ファイナル』をどうしたって思い起こさせます。
しかし一年後の今作での依子さんのほうが、がぜん若々しいし、可愛いです。微笑みも、柔和で自然。
そしてこの可愛さがほっこり温い気持ちにさせてくれます。
そこでまた、思いをめぐらしてしまいます。おかしい。ドラマで女優が可愛く微笑むことは変ではないけど、
「洞口依子が柔らかく微笑む」のは、2時間サスペンス的には異常事態です。

事故の件のお礼に、と彼女を夕食に誘う刑事。
「あら、刑事さんだったんですか?」このさりげないセリフまわしにも気をまわします。
「あした、よろしかったらご一緒しませんか?」あぁやっぱり、何か善からぬ事に刑事を利用しようとしているのだ。
そうに決まっている。

しかし彼女は、翌日の待ち合わせに現れない。
その付近で、殺人事件が起きます。被害者の持ち物は、彼女のスケッチ・ブックと帽子。
ところが、遺体を確認すると別人で、どうもあの女への容疑が濃厚になってくる。

このあたりまでは、伊東刑事の勘と淡い慕情とから来る「あの人は犯人じゃない」という思い込みが、
ドラマの主調音となって視聴者を導いてくれるわけですが、
そんな刑事のもとに、彼女が電話を入れてくる。「わたしが犯人です、出頭します」。
愕然とする刑事ですが、ここなんです。彼女が高山署に出頭するシーン。
依子さんの思いつめたような表情が画面下からせりあがってくる。
そのときに、青空と白い雲がいっぱいに広がっているんです。ちょっと『ドレミファ娘』のオープニングふう。
この瞬間に絵でわからせてくれますよね、彼女はシロにちがいない、と。

こういう2時間サスペンスでは、事件が解決し、犯人が護送され、
残った関係者が万感の思いをかみしめるシーンで、視聴者の興味がサッと退いていきます。
緊張の糸が解けて集中力がゆるむところです。
ところがこの番組、洞口依子さんと妹役の福地香代さんが抱擁しあい、
伊東四郎刑事にお礼を言っている場面で、依子さんの息をのむほど美しい表情に釘付けになります。
目に涙をためて妹と刑事を交互に見ている顔なんですが、ゆるんだ集中力が戻ってくるほどの美しさです。

こう言っちゃなんですが、映画での依子さんは、あまりこういう簡潔に綺麗な表情を見せることはありません。
もっと、エクセントリックな美しさを出しますからね。
しかし、2時間サスペンスでは話がべつ。
作りが、視聴者の喜怒哀楽を素直に導くように工夫されていることとも関係あるのでしょう。
物語のとどめに、大団円をうなずかせるだけの、含みのない、ストレートにフォトジェニックな表情。
その意味で、ここでの依子さんの可愛さは決してディープなマニア限定ではありません。
依子さんのサスペンスもので、それがここまで成功しているのは久しぶりじゃないかと思います。

また、高山の宿場町、橋の上でスケッチをしている姿も、かなりポイントが高い。
依子さんの存在感はたぶんに現代的なものであると思うのですが、こういう古いたたずまいの町並に立つと、
それがうまく「ワケアリ」感に中和されていきます。


2008年1月7日 21:00〜22:54 TBS系列にて
「月曜ゴールデン 新春ドラマ特別企画」として放送
製作:TBS 制作:テレパック
プロデューサー:森下和清、山後勝英
原作:西村京太郎 脚本:安本莞二
監督:油谷誠至


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(サスペンス作品での依子さんのデータバンク→「依子がサスペンス! 」のコーナー)

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