『はぐれ刑事純情派4 / 第5回 出所した女・赤い糸の犯罪』(1991)

岡本麗さん演ずる田崎婦警が若い看護師の女性を問い詰めるとき、
「職務上知り得た情報の守秘義務があるでしょう!」と叱咤する台詞があります。
現在なら、これに「個人情報」という言葉が追加されるんでしょうね。
そんなことをぼんやり考えながら見すすめていくと、この20代と思しき看護師が続いて、
「わたしが行きつけのスナックに行ったとき…」との台詞を述べます。
スナックか…1991年は、まだ90年代ではなかったのかも、
などと「90年代レトロ」の提唱者(笑)である私はつぶやいてしまいます。
でも、よく考えたら、時代云々というより、これは『はぐれ刑事』シリーズの色なのかもしれませんね。

依子さんが演じる吉谷街子は、自分を玩んだ男を刺してしまい、殺人未遂で服役していた女。
20代半ばながら、童顔もあって、まだまだ20歳前後で通用します。
彼女が入獄中に出産した子を養子に引き取った夫婦の妻が、何者かに殺されます。
赤ん坊はなぜか安浦刑事(藤田まことさん)の家の軒先に置かれていて、手の小指に赤い糸が結ばれてある。
そこで安浦は、過去に取り調べた記憶から街子に目を向けるのですが、
街子のとった行動は、安浦の思いやりと同情のフィルターを通して視聴者に伝わります。

街子という女の子はワケありすぎるくらいワケありで、そのワケが説明されながら描かれます。
「あの子はいまどき珍しくいい子なんです」という周囲の証言と、「彼女はかならず自首します」との安浦の信念が、
おのずと視聴者を「洞口依子は、どう『いい子』に落ち着くんだろう?」と期待に導きます。

ドラマの前半で、安浦が彼女を最初の殺人未遂で逮捕したときの様子が回想で出てくるんです。
赤く照らされた室内に、男を刺したばかりの彼女が立ちすくんでいます。
横顔から振り向く依子さんのアップがいいです。
顔と全身をこわばらせて、目を見開いている表情が、その幼い顔だちもあって印象に残ります。

これとよく似たシチュエイションに、近作の『弁護士高見沢響子9』がありました。
あれもやはり、赤いライトで染まった室内に死体があって、そのそばで依子さんがいるんですが、
そっちは床に座っていて、しかも無表情でした。
ただ、想像力をかきたてるという点では、『はぐれ刑事』のとき以上のものがありましたね。
また、『高見沢響子』での依子さんの役は、調査する側の同情や思いやりから遠いところにいました。
逆にいうと、『はぐれ刑事』での街子役は、登場した最初から刑事の同情に庇護されている、
ということになります。

その庇護されている感覚が、全編を通じて、このドラマでの依子さんの役柄にはあります。
それは『はぐれ刑事』の世界では、安心感とも言える。
ただ、それが洞口依子という女優の個性を中心にして考えると、いささか座りの悪さが残ります。
不親切に、逆なでするくらいの異物感があったり、不安定に揺れ動くほうが、
依子さんの魅力が増すように思んです。

後半、何度も彼女の顔のアップが出てきて、どれも眼光の魔力がさすがなんですけど、
まるで安浦刑事の同情をはじき返すがごとく、よりあやしく、不確かな方向を見ているかのようです。
私は最初、冒頭に書いた「スナック」という言葉のような、このシリーズ独特の濃厚な空気が、
この時期の彼女にそぐわないのかと思いましたが、それだけではないんですね。


ところで、依子さんの役は美容師の資格を持っているとのことで、赤ちゃんの髪を切る場面があります。
でも、この子がなかなかおとなしくしてくれないんですよ。
抱っこするシーンでも、なんか扱いが大変そうです。
依子さんがハサミを当てているところを、カメラを引いて撮ったりしてます。
見ていて、何度も悲鳴をあげそうになりました。 こわくて!


1991年5月1日 テレビ朝日系にて21:00〜22:54放送

村川透 監督
荻原美和子 脚本  
   

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