『ゴルフスクール 女たちの華麗な斗い』(1992)

『土曜ワイド劇場』の磐石ともいえる、松尾嘉代さんが女の
斗いを激しく演じるドラマだが、
その秘書役の洞口依子さんが主役と言っていい。

大規模なスポーツクラブの開発をめぐって、それぞれテニス界、ゴルフ界でかつて名を馳せた女傑2人が
リーダーシップを争ううち、殺人事件へと発展する。
1人は松尾嘉代さんのゴルファー、もう1人は結城しのぶさんのテニス界の大御所で、
そこに松尾さんの不倫相手の妻役・奈美悦子さんが絡んでくる。
と、ミステリードラマの外観で見る者をミスリードするが、実体はピカレスク・ロマンの要素が濃い。
そしてその意外性と依子さんの魅力が結びついているところが嬉しい。

松尾さんが指導するゴルフ教室の場面など、依子さんも実際にコースで打っている
(彼女は10年後の2時間ドラマ『殺意』でもゴルフの素振りを見せている)。
そして、松尾さんの生徒など他の人々が嬉々とした面持ちで興じているいっぽう、
依子さんの秘書の沈着ぶりがもたらす静かな違和感が通底音のようにある。

このドラマには探偵役として推理を進めていくキャラクターが強調されておらず、
そのパートに最も近いところにいると思えるこの秘書も、筋運びの中に常に受身で映っている。
犯人を追い詰める断崖でのシーンでも、彼女は感傷や憐憫を顕わにしない。

こんなふうに、多くのシーンで、依子さんのクールに突き放した視線に、
嫉妬と奸計に満ちた女の戦いの熱をびっくり水のようにいったん下げる効果がある。
そしてラストで真相が明かされたとき、彼女が物語を通じて「変貌」していったのではなく、
いつも一定の温度と距離を保ってそこにいたことに気づく。
依子さんにまんまとしてやられるドラマである。

先に挙げた『殺意』もそうだが、こういうドライなセンスでひねった作りに依子さんは本当にハマるし、
そこには彼女以外では味わえない旨味がある。


1992年3月14日(土)21:00〜22:54 テレビ朝日「土曜ワイド劇場」にて放送
演出 永野靖忠
脚本 長野洋

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