『ZawaZawa Vol.38〜佐藤正治と音もだち〜』
ゲスト:Paititi (洞口依子:歌、ウクレレ/石田英範:歌、ウクレレ)
(2011年6月25日 二子玉川LIALEHにて)



 いつも東京行きに利用する新幹線は「のぞみ」なのだが、今回は「ひかり」に乗った。静岡で先行公開中の映画『百合子、ダスヴィダーニヤ』(浜野佐知監督)を見るためである。洞口依子さんが作家の野上弥生子役で出演しているとあって、京都の映画館でかかるまで待てなかった。
 見終わると、その足で東京の二子玉川、パイティティの2人がゲスト出演する佐藤正治さん(ヒカシュー)のイベントに駆け付ける。そのために、こんなトラベル・ミステリーのアリバイ作りみたいなスケジュールを組んだのである。

 一日の終りには、自分のいる所が府なのか県なのか都なのか、おぼつかなくなってきた。
 そのうえ『百合子、ダスヴィダーニヤ』は大正末期〜昭和初頭の物語だし、イベントではドノヴァンの話は出るし、深町純さんや80年代の田中裕子さんの話もあるし、時間の感覚までごっちゃになってくる。なんだかこの一日、自分が内田百(けん)の小説の中に描かれているみたいな気分がして愉快だった。

 『百合子、ダスヴィダーニヤ』では、洞口依子さんが2人の人間を結び付けるその結び目にいる姿がとても魅力的に映った。
 私は、どちらかと言うと、依子さんは結ばれるほう、強い個性を持って他のアーティストと引き合う人だと思っていた。しかし、『ウクレレ PAITITI THE MOVIE』というパイティティの映画を見たときに、それだけではなく、彼女もまた、いろんなところでいろんな人たちを引き合わせてきたのだなと感じ入った。
 恋愛発生の瞬間を司る洞口依子さんの微笑みはここでも謎めいていて可愛く美しく、私も野上弥生子について自分なりに知りたくなった。なので、この映画での依子さんについて書くのは、もう少しこの作家のことを知ってから、そして公開が拡大されてからにしたい。
 『百合子、ダスヴィダーニヤ』での彼女を、『子宮会議』のリーディングセッションやパイティティで彼女を知った人たちにも見てもらえたらいいなと思う。

 さて、洋館の庭で紅茶を飲む依子さん=野上弥生子の姿が焼き付いたまま、二子玉川のLIALEH である。
 なんと扉を開けてすぐのところに、パーカッション類とウクレレがセットされてある。だから、少し遅れて入って来た人は、必然、ミュージシャンの間を通ってテーブルに着くことになる。
 そんなスペースと近さだから、自然と演者と客という感覚が薄くなる。何に雰囲気が近いかというと、街頭でおこなわれるラジオの公開放送。しかもガラスの隔てがないから、アットホームで寛げることこの上ない。

 パイティティの石田画伯と依子さんは途中で数曲参加するのかと予想していたが、最初から最後まで、彼らと正治さんとのショータイムであった。
 パイティティの曲も演奏した。「アイスクリーム・ブルース」も「マイ・ネーム・イズ・ダン」も「パリのアベック」や「ショコラ・パイティティ」も、どれもパイティティとはまた別の緩さがあっておもしろい。この緩さは、キッチリ決まった枠からは生み出しにくいものだろうけど、シロウトがやるとエラい目にあう類のものでもあると思う(というより、こういうのは、出せない)。

 かつて石田画伯はパイティティのことを
「遊び場」と表現していたが、その遊び場にはさらに秘密基地があった、そんな感じで進行してゆく。 ちょっとしたアクシデントがあっても、正治さんの大きな笑顔、それも音楽の笑顔が、それをこちらがのれるように放り投げてくれる。
 この日、特筆すべきは、カバー曲のおもしろさだった。石田画伯がドノヴァンのHurdy Gurdy ManとTwo Loversを歌って、これがまた今は亡き「トノバン」こと加藤和彦氏を彷彿とさせる色気がある。
 また、前者ではなんと依子さんがジミー・ペイジのパートをディストーションをかけてウクレレを弾きまくる。パイティティの遊びは冒険だから楽しい。洞口依子+ウクレレxディストーションなんて、ホントにクレイジーでかわいくてカッコいい。
 
 また、それらカバー曲にまつわるエピソードも豊富で、深町純さん、田中裕子さん、ドノヴァン、ロバート・ワイアットなどなどが話題にのぼり、3人のトークがとにかく弾む。
 音楽の好きな者が集まってミュージシャンの話に花を咲かせることは私にもある。そして、この3人のトークにもそういった楽しさはある。
 しかし、石田画伯がドノヴァンを、洞口依子さんが田中裕子さんを、そして佐藤正治さんが深町純さんとの思い出を語るのは、やはり特別なことなのだ。エピソードに登場する彼らの肖像も、それを語る3人の言葉も、この夜の音楽の一部なのだった。

 私は、こんなふうに音楽を語り演奏する「音楽による言葉」というものを持ってはいない。だけど、そこにある彼らと他のアーティストとの結び目は伝わる。おもいきり「何サマ」なことを言ってしまうと、それは、誰かが彼らに繋いだものでもあり、また彼らが誰かと誰かを結びつけたものの繋がりなんじゃないかと思う。
 依子さんの("I read the news today, oh boy"も顔負けの)新聞朗読&アドリブに正治さんと石田画伯がヴォイスとウクレレの音を交わしたインプロは、その結び目が飛び出す音の絵本のように開かれて、驚きと機知にあふれ、格別に楽しかった。

 「音楽を愛好する人と、音楽家とは、ちがう種類の人間だ」とスティーヴ・ウィンウッドが言っていた。
 私もそう思う。そして私は「音楽を愛好する人」だ。彼ら「音楽家」とは距離がある。だけど、そこには結び目があると信じていたい。距離があることは、なにもネガティヴなことではないのだ。
 最後に3人で演奏する佐藤正治さんの「幸せの唄」「Meet Your Child」は、私としっかり結びついたと思う。

*イベントの詳しい内容は依子さんのこの日のブログで!

(2011年6月26日記)  


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洞口日和