『超難解推理クイズ 頭脳警察・殺人授賞式』(1995)

(洞口依子さんについての解説です)

ミニドラマ仕立てのミステリー3本にスタジオのゲストが解答する番組で、
洞口依子さんは最初の問題「殺人授賞式」に出演しています。 ドラマ自体は10分程度。

推理小説界の授賞式で、受賞者の作家が殺害される。
犯人は、自分の考えたトリックを先に無断使用された作家。
このアリバイを崩す「少女ノヴェル界のミステリー女王」と呼ばれる作家が、洞口依子さんです。
劇中の探偵役ですが、「特別出演」とクレジットされていて、前にも書いたことがあるけれど、
この「特別出演」ってのは実にニュアンスが汲み取りにくいですね

事件が起こるまでの依子さんは、いかにも文壇のアイドル的な華やかなスタア性を強調した存在感があります。
最初に映るのは、授賞パーティーで会場の扉が開いて、カメラが中に入ってゆくとき。
顔は確認できなくとも、赤いドレスの女性が画面中央の奥にいるのが視線をとらえて、
それが歓談する依子さんの笑顔に切り替わる。

このサイトを作っていて、今さらながらにこの1995年という年が、
依子さんにとって『勝手にしやがれ!!』シリーズで演じた羽田由美子の年であったことに気づかされます。
この『殺人授賞式』でプレゼンターとして記念の万年筆を贈呈するときの柔らかい物腰、
「おめでとうございます」と笑顔で祝いの言葉をかける口調の軽みにも、
依頼人をビジネスライクにあしらう際の由美子の面影を予兆させるものがあります。 

『勝手にしやがれ!!』シリーズのファンが、なぜかこのサイトをよく見ているから言うのではないですよ。
(「なぜか」って言っても、ワタシがそうさせたんだけど・・・)
解決編の手前、依子さんが犯人の嘘をあばいてゆくところなんか、とっても面白いんです。
こういうとき、探偵というのは、犯人にしっかり対峙して真相に近づいてゆくものなんだけど、
依子探偵はかなりちがっています。

彼女はまず、「あなたが殺したんじゃないんですか?」というセリフを、
犯人や刑事たちから目をそらすように、うつむき加減でぽつりと言うんです。
それも、「〜ですかぁ?」と自信なく、おびえたように表情を曇らせ、弱さに近いニュアンスがあります。
こういう表現をしているときの洞口依子は独特です。 
一瞬だけのことではあるけど、その一瞬にして、見ている人間の負の感情を抉りにぐっと寄ってくる。
『超難解推理クイズ 頭脳警察』の中のVTR、という枠を飛び出して、流れに渦を作ってしまう。

いったん犯人の固まった表情のアップに切り替わって、また彼女に戻ったとき、
彼女は今度は直前までの負の表現から、突如として犯人に「勝ち」に向かう。
「あなたがこの部屋か別の部屋で殺して、自殺したように見せかけたんでしょう?」笑みさえ浮かびかけています。
そしてこの後がたまらない。
「アリバイ・トリックの名人と言われたあなたなら、このくらいなんてことないですよねぇ?」
もはや、ニンフが人間を玩ぶように、声には弾みがついているし、勝利の確信が伝わってきます。
どんどん不敵になっていく。 この、人をまごつかせかねないほどの、ふてぶてしさへの呼吸のバウンド。

いや、じっさい、クイズ番組のVの中で、ここまでやることはない。
もっと直線的に「犯人はキミだ!」とかやっちゃったほうが、見ている人の心をつっかけない。
でも、たぶん、それこそぼくの「超難解推理」なんだけど、
依子さんが「特別出演」である背景には、彼女にこのくらいやっちゃってもらっていいという
見えざる意志がどこかから働いていたのではないんでしょうか。

わかりません。 妄想ですけど。
いいではないですか。
だって、羽田由美子までもう手が届いているんですよ、これ。


1995年1月22日19:30〜20:54 
TBS系列『THE プレゼンター』枠にて放送

 

「この人を見よ!」へ戻る

←Home(「洞口日和」)