『危ない話 夢幻物語』「第2話 奴らは今夜もやって来た」(1989年)

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この作品は『洞口依子映画祭』で上映されます!

井筒和幸、黒沢清、高橋伴明の3人の監督がそろい踏みしたオムニバス映画の1本で、
依子さん登場は、もちろん黒沢監督の「第2話 奴らは今夜もやって来た」です。

黒沢監督としては、『スウィートホーム』の1本前にあたりますが、ある意味では、こちらのほうが、
より黒沢的と言える内容で、のちの『地獄の警備員』にもつながるセンスが楽しめます。
また、黒沢=洞口の組み合わせで言えば、4年前の『ドレミファ娘の血は騒ぐ』の次にあたります。

主人公は石橋蓮司さん演ずるミステリー作家で、山中にある友人の別荘にこもって執筆中、
得体の知れない股旅姿の2人組に追い回されます。

依子さんの役は、主人公が恐怖から気を紛らわすように入った食堂の店員。
作品中、唯一の女性キャラクターです。

登場してすぐに、主人公に天ぷらうどんを配膳し、その場で七味瓶の使い方などを説明します。
前に見たときから気になっていたのですが、ここでの依子さんのセリフまわし、どこかの訛りを感じます。
依子さんは東京出身だし、なにより、意図的に演出か演技で付けられた訛りとしか思えないのですが、
今回見直して思ったのは、この口調は、古い日本映画(1950年代くらい?)に登場する女性も思わせる、
ということでした。
だからどうしたと言われると、気の利いたことは考えつきません。すみません。
(『
世にも不思議なオムニバス フローズンナイト 』でも同様のセリフまわしが!)

ただこの店員、何か曰くありげな感を漂わせています。
主人公の不安と焦りに対して、七味瓶の扱い方を説明するこの店員の、おっとりしているのだけど、
妙な抑揚の付いたしゃべりかた。これがなんとも、いやぁな口当たりです。
事件(=非日常)とも関わってないし、日常ともちがうところにいるような、居場所の判然としない存在感。

主人公に「あの二人連れを知っているか」と聞かれても、ちっとも要領を得ない受け答え。
ここは、依子さんの、わざと空気を抜いたような間合いが効いてます。
と、思っていると、続くカットでは、うどんを食べようとする石橋さんの顔の隣に、腰をかがめて顔を近づけ、
「そういえば、あの二人…」と不安をあおるセリフを言うのですが、この二つの顔の並んだカットがとても好きです。
彼女が非日常にグンと近寄ってくるタイミングと、依子さんの表情の吸引力が増す呼吸がピタリと合っています。


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