『20世紀少年・第1章終わりの始まり』(2008)

(このサイトは洞口依子さんを応援するサイトです。
ここでの解説は、作品中の洞口依子さんについて語ったもので、
作品全体にふれるものではありません)

連載開始時から、映画化を望む声と同時にその実現可能性を疑問視する声もあった
浦沢直樹氏のコミック、『20世紀少年』。
最近の日本映画にはめずらしい3部作となる、その第1作です。

さまざまなスターが顔をそろえる大作でもあるわけですが、いわゆる顔見世的なものではなく、
短い場面でその人の持ち味が生きるような出かたがほとんどです。
たとえば、血まみれの男の遠藤憲一さんやコンビニの店員の池脇千鶴さんなどが、
それぞれの個性をいかして画面を活気づかせてくれます。

洞口依子さんはこの「第1章」で、木戸美津子役として登場します。
美津子は、主人公ケンヂの幼なじみ、ドンキーこと木戸三郎の妻。
ドンキーが謎の死をとげてから、その葬儀のシーンで最初に登場します。
原作の美津子は、昭和のにおいのする、どちらかというと和風の薄幸感漂う女性です。
依子さんも、まずは喪服姿で画面奥に座っているのが見えます。
次にケンヂが木戸の家を訪ねる場面で、ケンヂ役の唐沢寿明さんと対面します。
愛という名のもとに』や『一児豪華主義』の90年代前半以来の顔合わせ、ってことになるのかな?

未亡人という設定であるわけですが、サスペンスでよく見られる色香より、生活感が前面に出ています。
ではまったく色っぽさがないかというと、そんなはずがないのが洞口依子という女優。
このとき、画面右半分に依子さんの顔が大写しになる箇所があります。
夫に先立たれたショックから未だ立ち直れないでいる女性なんですけど、
このアップの表情が、あと少しで日常味から脱しはじめそうな、輪郭がぷるぷると微動しかけている、
なんてことを書くと病院送りにされそうですが、登場の尺がもうちょっと長かったら
ヤバい扉が開きそうな予感をもたらします。
正直、もっと見たかったと思いますが、画面構成も含めて原作の描写に徹底して忠実に作ってあるので、
それは致しかたない。

ただ、この役を洞口依子さんに当てたとき、美津子だけでなくドンキーのキャラクター上でも、
原作とニュアンスが変わるような気がして、そこを興味深く思いました。
ドンキーの子供時代を演じる子があまりに印象に残る顔立ち(大泉洋系といえば適切か)で、
そのエピソードの際立った面白さもその子の雰囲気によるところが大きいんです。
この子が大きくなって結婚した相手としての木戸美津子像を想像したときに、
原作の、あの庶民的な親しみやすさのあるドンキーの嫁さんから変わるのは当然といえば当然。
生活感から数歩腰を浮かせかけたような今回の依子さんなら、生瀬勝久さんのドンキーに似合いそうです。

ところでこの作品、主要人物が中年ということもあって、日本映画の中核を担う俳優さんたちがズラリと並びます。
唐沢寿明、豊川悦司、香川照之、佐々木蔵之介、宇梶剛士…
みなさん、私より少し上の年代(蔵さんだけ同い年か)で、私が20代頃に脚光を浴びだしたかたばかりです。
そんな俳優さんたちが、大画面で顔をそろえて全3部の大作を担う姿に感じるこの頼もしさというのは、
今後も記憶に留めておきたいと思います。
60年代の半ばあたりに生まれた俳優が、こうやって中核をなす時代が来たんですね。
それがこの映画のテーマと重なるところが大きいのも感慨深いです。

洞口依子さんは、そういう世代の中にあっても未だにユニークで個性的であり続けるし、
私が本当にみたい洞口依子さんは、これから先の洞口依子さんです。
洞口依子でなければ輝かない画面というのが、あるんです。 意味が印象が流れが変わっちゃう作品が、ある。
依子さんの作品について100本書き続けて、私は自信を持ってそう言います。
それを楽しみにしている人たちや、人生変わっちゃう人たちが、これからも出てきます。
だから、演じることをやめないでほしい。

『20世紀少年』のパンフレットに、出演者の石橋蓮司さん(原作を読むために、初めて漫画喫茶に行かれたらしい)が
こんなコメントを寄せられています。

「この時代(70年代)のことはわたくしに語らせてくださいと思うほど、熱く生きた時代でした。
人間がどこにはぐれて、どこに凝縮していくのか、実感をもってわかりますから、時代性を醸し出せればと思います」

凄いですね。 あの時代と格闘した人たちって、ホントに凄いんだ。
私には、こんなことを言える何かを持っていない。
輝ける21世紀のヘナチョコ中年よ、奴らにどう立ち向かっていく??


2008年8月30日公開
シネバザール、オフィスクレシェンド 制作
東宝 配給

堤幸彦 監督
浦沢直樹 原作
浦沢直樹  福田靖  長崎尚志 渡辺雄介 脚本  
   

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