『ウクレレ PAITITI THE MOVIE』(2010)


この映画をどんな人に薦めよう。

ぼくがパイティティに興味を持ったのは洞口依子が在籍するウクレレバンドとしてで、そこからすぐに彼らの音楽のユニークさに惚れた。
けれども、パイティティのこのドキュメンタリー映画を薦めたいのは、自分のような洞口依子ファンだけではないし、音楽マニアの人ばかりでもない。
むしろ、そうでない人にこそ観てほしい。

音楽と一緒にこの映画を彩っているのは、特殊造形の第一人者・原口智生監督とそのスタッフによるPVとライヴのセット。
これが手作り感覚にあふれて観ているだけで楽しく、その中で演じるメンバーの姿もほほえましい。
同じくらいに、那覇に行ったパイティティの、そして彼らのハプニング演奏を囲んでいる国際通りの人たちの、笑顔が瑞々しく美しい。
互いに素直に驚き、素直に出会いを喜び、そこに自然な笑みがこぼれている。その風通しのよさはどうだろう。
この笑顔はこの映画の宝物だ。

「ウクレレ愛好家」としてインタビューを受ける関口和之さんが、こんな意味のことを述べている。

「ウクレレのあの音色は、人生でふと立ち止まった人の心に染み込んでくる。ドロップアウトした人ほどそれがわかるはず」

関口さんの穏やかな語り口あればこそなのだろうが、苦境を味わったことのある人間には、この言葉自体がジンワリと優しい。
特別な話ではない。誰だって立ち止まることがあるし、立ち止まらざるをえない時を経験する。
そしてこの映画もまた、そんなときに染み込んでくるかのような、芯のある、さりげないぬくもりを持っている。

パイティティの音楽は、CDを聴くだけも独特で面白い。ライヴだとまた別の躍動感がある。
この映画は、そんな彼らの音楽に聞こえる、「人生を愉しむ」姿勢を見せてくれる。
「人生」などと書くと面映いものがあるが、愉しんで生きる、と言ってみてはどうだろう。
美味い料理を味わうように、魅力的な土地を旅するように、恋をするように、素晴らしい音楽に浸りたい、混じり気のない笑顔に出会いたい。
もちろんそれだけですむものではない、でもだからこそ愉しんで生きる、徹底的に。
どんなに打ちひしがれて立ち止まっても、そんな夢を見る自由は誰にでもある。
助けが必要なら仲間を求めていい。そこに人が集まる。何かが生まれる。それがどれほどかけがえのないことか。
1本のウクレレから始まるこの映画で、時に深く考えさせながら、時にズッコケながら、決して鳴りやむことがないのはその希望の音だ。
そしてこれは希望の映画である。


2009年11月13日(金) シネマヴェーラ渋谷『洞口依子映画祭』にてプレミアム公開
2010年9月18日(土) UPLINK Xにてレイトショー公開

ジェマティカ・レコーズ 制作
原口智生 監督
本田吉孝 監督補・編集

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