『夏ソリトン モンド宣言』(1994)

さて、ソリトン。
これは説明の必要ないでしょう。
いわゆる、『YOU』の頃から連なる、NHKのサブカル系番組で、とくに人気のあったもの。
この1994年は番組名が『ソリトン 金の斧銀の斧』の頃。
それの夏休み特番として作られたのがこの『夏ソリトン モンド宣言』です。

夏だからって「海のソリトン」とかビーチ特集などに走らないのがこの番組。
あ、しまった。最近、若い読者のかたが増えてきたのに・・・すみません。言ってみたくて。

特集のテーマはファッション。
だったら「モンド」じゃなくて「モード」なんじゃ?
とツッコミ入れたくなるかもしれませんが、そこはほれ、1994年だったんですよ。
まだおわかりにならない?
途中、小山田圭吾と北村信彦のインタビューがそれぞれ挿まれています。
1994年、小山田圭吾とくれば、やっぱりテーマはファッションでも「モンド」になるわけです。
このへん、説明すると長くなるので、ごめん。

この90年代半ばの空気感は、あの時代にどこを向いていたか、個人差によって伝わりにくい場合があります。
私はこのサイトでも再三、「90年代レトロ」なるインチキ臭いものを提唱しているわけですが、
この番組はそんな’90sレトラーの目じりが下がりっぱなしですね。
この頃の小山田君は、コーネリアスのファーストの頃。
スニーカーと帽子のさりげないお洒落をさりげなく紹介されて、スタジオでライヴ・ビデオのチェックをする様子。
ここがいい。おっしゃれ〜!でも「ビデオ・テープ」。これぞ「90年代レトロ」な味わいです。
バカにしてんじゃなくって、なんかこの、IT革命が日常に入り込んでくるわずか前の、
個人とメディアの関係性が飽和している感じ。
これが妙に、こそばゆいような、切ないような、「古くも佳くもない時代」な空気がいいわけです。微風。

さて、洞口依子さんは、今回ここではナビゲーターというか、唯一のMCの役割なのですが、
ディーヴォみたいな帽子を乗っけて、この当時はかなり「最先端の『懐かしい』音」・・・ややこしい言い方ですが、
これもまた90年代の音楽シーンの特徴でしたよね・・・だったテクノ・ポップな出で立ちで登場。
ときどき、「脱構築」な振りをつけて踊ったりしながら、平坦なトーンでコメントを述べます。

いちおう、番組全体を貫く企画として、デザイナー志望の3人の若者に依子さんをモデルにした衣裳を考えさせて、
最終的に1着を彼女が身にまとう、というものがあります。
その合間に、東京と大阪の個性的な若者が紹介されて、依子さんがこれにもコメントを寄せる趣向。

大阪の若者の中に、嶽本野ばらがいたりして、まだ関西でも知る人ぞ知る存在だった彼について、
依子さんが「女みたいでおもしろい」と述べているのが今となっては貴重です。これ、嶽本氏は凄く喜んだそうですよ。
そりゃそうだよな。洞口依子に公共の電波で変人扱いされたわけだから。最高の栄誉でしょう。

こんなふうに、依子さんのコメントはけっこう率直です。
これ、コメントの部分はきっと台本なしでしょうね。「ダサい!」とかバッサリ言ってるし。
エクセントリックで奇抜なだけのものは、依子さんの感性にあんまり乗らないみたいなんですね。
「1オクターヴをさらに細かく分割したオルガン」や先述の嶽本くんの人形コレクションなど、
どこかクラシカルな趣味と結びついていて、さらにそれらがその人の個性を際立たせるものに対しては、
好感を持った発言をしています。
依子さんもこの番組出演時より昔、80年代の後半には、「不思議っ子」の範疇に解釈されたりもしたけど、
彼女の中にある、伝統的なもの、古典的なものの素養や憧れ、興味が、
いかにもな新人類群からユニークに逸脱させることになっていたと思います。
だから、新人類の中でもさらにつかみどころがなかったし、近寄りがたさにもなったわけだけど、
そういうところが20代の彼女の魅力であったのです。

多くの演出家たちは、彼女のそんな魅力をなんとか映画やドラマにとらえようと、いろんなフォルムを彼女に当てて、
全体のドラマにどう活かせるか、あれこれ試していたようなのですが、
この『夏ソリトン』では、なんと、そのフォルムがぼんやり、曖昧になっているのが面白いです。
ファッションを語る、という全体の流れはあります。
しかしながら、最後の最後、作られた3着の服から彼女が選んで着る段の、あまりに呆気ないエンディング。
普通ならもう数分、盛り上げに取っておくものだろうに、まるで撤収するかのように終わっちゃう。

そう考えて見直すと、なんだか途中で、作り手がファッション云々に飽きちゃったような感もあって。
それに追い討ちをかけるかのような、依子さんのあの表情!
リズムに合わせて体を揺すっているときも、「そんなに面白くないでしょう、これ」と呟いているみたいな口元と目つき。

まるで熱湯甲子園の対極。
「ほら、これ、ぬるいのよぉ。ね?熱くないでしょ?じゃ、次行きましょうか」そうカメラに向かって言ってるみたい。
これがいいんだよなぁ。
曖昧なフォルムに曖昧な彼女。宙ぶらりんにされる視聴者。たまりません。
これがタンと入った番組です。ツボ突きまくり。
ナレーションは加藤賢崇さんだし!
よほどの好きモノが作ってるとしか思えない。

構成、葛西弘道。


1994年8月13日 NHK教育
23:00〜23:40 



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洞口日和