『清少納言殺人事件』(1998)

春は曙、女優は顔。
人間は顔じゃないと言いながらも、顔は人間の顔です。
私は、洞口依子さんの右の眸の下あたりから頬にかけて、サッとあらわれる翳が好きです。
このHPの目的の一つは、そんなヨーリー・シャドウを礼賛することでもあります。
これが、私にとっては、審美学的に非常に好ましい。
平たく言うと、めっちゃ好き。

でもこの2時間ドラマ作品での依子さんは、そんな私の個人的嗜好を超えたところで、とんでもなくお美しいです。
じゃなくて、これがワタシの個人的嗜好なのか?
まぁいいや。
とにかく、全編、美しさが出ずっぱり。目がかすんじゃうくらいに美しい。
『黒衣の花嫁』のジャンヌ・モローではなく、『暗くなるまでこの恋を』のカトリーヌ・ドヌーヴっちゅう感じです。

ともかく、なんで清少納言殺人なのかというと、これは山村美沙原作の「名探偵キャサリン」もので、
京都の大学教授、清水紘治さんをめぐる国文学研究者の女性たちが関わっているのですね。
紫式部を研究する宮田早苗さん、和泉式部を研究する渡辺典子さんが次々に殺され、
清少納言研究の洞口依子さんにも魔の手が忍び寄る、という話です。
これを解決するのが、希麻(きあさ)倫子こと通称キャサリン、かたせ梨乃さんです。

かたせ梨乃さんというと、私はどうしても、いつも余裕の薄ら笑いを浮かべているような印象があります。
ことに2時間サスペンスのときはそう。
相棒(概して年下の男の子。ここでは関口知宏さん)をからかいながら登場するときも、
腐れ縁の刑事(西岡徳馬さん)の誘いを軽くあしらっているときも、
現場に謎めいた暗号のような遺留品を見つけるときも、
そして犯人を厳しくかつ包み込むように諌めるときも、
「でも、私は笑ってられるのよ」とでも言わんばかりの余裕を薄ら笑いで見せつけます。

洞口依子さんはですね、「薄ら翳り」。
「幸薄」とはまたちがうんですよね。決して男の庇護欲をそそるとはかぎらない。
翳りがあっても、意志に裏づけられているか、主張がある。なんだ、「主張ある翳り」って。
思わずチカラになってさしあげたくなる翳り、というのは美人だから当然あるのだけど、
それプラス、それを超越した、凛とした力強さがまぶしてある。
どこかで理知の力を感じさせると思います。
ヨーロッパの女優さんなんかだと、けっこうデフォルトで持ってるのかな、これ。

『清少納言殺人事件』でそんなことに思いを馳せる私もどんなもんかと思うけれど、
これはけっこう再放送されてるみたいなので、ファンならぜひ見てほしいですね。
夏の太陽に肌を小麦色にする依子さんもいいですけど、冬の光は本当によく似合います。

1998年1月5日 TBS系列放送 『月曜ドラマスペシャル』枠
脚本 いずみ玲
監督 山内宗信

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