『三匹が斬る! 第10話 舞い戻った色男!!浜名湖は、恋と花火と蒲焼の味!!』(2002年)

(このサイトは洞口依子さんを応援するサイトで、この文章も作品中の洞口依子さんについて述べたものです。作品自体に関するものではありません)


花火みて めおとやくそく いきなえん

洞口依子さんの役は、浜名湖の船宿の仲居。えんという名の女です。
子供の頃、いじめられていたところを助けてくれた幼なじみの源次を思い続けて、
一年前の浜名湖花火大会の夜、偶然再会した彼と夫婦の約束を交わします。
この源次が宇梶剛士さん。

上記の句は、源次がホロ酔いの良い加減で彼女のためにひねったもので、
いかにも町人が興のままにこさえた素朴な洒落っけだけのものですが、
えんは、これを折鶴にして大事に持ち歩いているのだから意地らしい。

依子さんは、水のほとりで一人たたずむナゾの女として登場します。
そこに、なぜか逃げる源次と追う御上の手の者との捕物劇。
一部始終を怪訝な顔色でながめる彼女、野次馬の後方にそっと加わって見るんですが、
このときの依子さんの肩をややだらしなく落とし気味にした立ち姿が、引いた絵のなか、
好奇の目でうかがう他の人々から際立っています。

彼女は源次の言葉を信じ続けて待っていたのだけど、
源次にしてみれば酔った勢いの出来事だったようで、彼女のこともおぼえていないのだから酷い。
花火大会の夜に彼女と一緒にいたことが源次のアリバイになるんですが、
彼のつれなさに腹を立てたえんは、そんな事実はない、と嘘をついてしまいます。

このドラマでの依子さんは、最後の最後のフレームアウトする瞬間以外を、
見事なくらいに沈んだ表情で通しています。
それがまた、これでもかというほど肩から上のアップで積み重なって、当然彼女のうなじの美しさもあいまって、
「洞口依子ファン無愛想派」をぞんぶんに楽しませてくれる趣向と相成ります。

このシリーズは、セリフをはじめ、現代的でライトなタッチが人気のようで、
依子さんが高嶋政伸さんと山田まりやさんに証言を求められる屋内の場面などは、2時間サスペンスかと見まがうほど。
とくに、依子さんの顔に感情を押し殺してできる陰翳がさして、そのアップの肩越しに人物が映っていると、
そのまんま『お祭弁護士』に出てきそうな絵になりますね。
(山田まりやさんが、どことなく山村紅葉さんを思わせるというのも、大きいかも!)

早送りで見直してみると、依子さんは、ほとんどの場面で目線を斜め下に落とし、物思いにふける憂い顔。
他の人たちが威勢よく活発にしゃべり動く中でストーリーが進行するので、よけいにそこで休止する印象があります。

また、笑わない表情でも、最初は怪しげな重要参考人臭を早々と漂わせて煙にまくし、
源次との思いの温度差を知って、「おぼえてない・・・?」とつぶやく段、
むかし彼が自分を救ってくれたときのことを思い返す段、
そこから刑場へ護送される彼の後を追って再度の裁きを訴える段、
どれもニュアンスが異なるし、表情の小さな抑制の加減でそれが大きな波に変換されて伝わってきます。

ただし、大団円となって、
「これからは、えん以外の女には目もくれねぇよ」と言ったしりから他の女を目で追う源次を、
つねって引っ張って連れ去る怒った顔は、ほっこりした魅力。
あ、笑みを挿むかな?このまま消えるかな?とじっと見ていると、本当に終わりかけのところで、
一瞬吹きだしたように笑ってました。

高嶋政伸、内藤剛志、光石研、宇梶剛士、といった男優陣の「洞口依子」共演者度の濃さにも、なぜか安定感あり。

最後に、不肖私が、えんから源次への思いを代弁して、雑俳をひねりましょう。

かなわぬと げんじほたるが 身をこがし

町人らしいでしょ。折鶴にしてください。


吉田啓一郎
  
 監督
佐伯俊道 脚本

2002年6月17日(月) 19:00〜19:54
テレビ朝日系列にて放送
 
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