『女調査員・おでん屋“ぽんた”探偵局 自殺か他殺か!? 父から娘へ贈られた保険金に秘められた過去!!』(1996年)

女芸人の友近のモノマネで私がいちばん好きなのは、「『行ってらっしゃい!』と送り出す十朱幸代」なんですが、
彼女ならきっとうまくマネるんだろうなぁと想像してしまうのが、浜木綿子さん。
気っぷがよくて、口は悪いが腹になにもない、江戸っ子のおふくろというイメージそのまんまで
元保険調査員の屋台のおでん屋に扮して大活躍する一編。

その息子でうだつの上がらない刑事役がヤッくん。
「はなまるカフェ」で、ヤッくんと前田耕陽氏が語り合っているのを何度か見たことがあるんですが、
このドラマで2人は共演してるんですねぇ。「ですねぇ」ってほどのレアな絵柄ではないか。
じゃあ、こっちはどうでしょう。
洞口依子&前田耕陽。
おぉっ!羽田由美子&吉行耕作!

ちょうどこの1996年は、『勝手にしやがれ!!』シリーズのど真ん中ですね。
この2人の顔が並ぶと(実際にはあまり並ばないけど)、
「由美子!耕作にそんなデカい顔させといていいのか!」
「耕作!それは罠だ!その女は人を利用することしか頭にないぞ!」
などと声をかけたくなったりします。
とにかく、ここでは耕作がワルで、由美子は同情をひくヒロインなんです。

私は、羽田由美子のこと、語りだしたら止まりませんよ!
大好きですからね、あのキャラクター。「ハネユミ」。
どなたか、「ハネユミ」のファンクラブ作りませんか、ってくらい。

そういえばここで耕陽氏が演じるチンピラも、吉行耕作役からさほどかけ離れてはいない。
夜の街をフラフラして、無責任だし、人物の属性だけ取り出すと、けっこう重なる部分はあります。

依子さんのほうは、「ハネユミ」とは大いにちがうんですが、
ラストで、夜の暗闇をバックに彼女の泣き顔がアップになるところなんかは、ハッとしてしまいます。
また、おでん屋の朱がかった色の暖簾をバックに横顔をとらえたショットにも、「ハネユミ」期ならではの美しさがあります。
個人的にはこの横顔は、ヨーリー・マニアの「依り好み」ショットとして認定したいくらいです。

さてこのドラマ、3人の女性が重要なモチーフとなって現れます。
まず、主役の浜木綿子さん。
おでん屋を営みながら、昔の同僚(赤座美代子さん)に頼まれて保険調査に乗り出し、
しかも刑事の母親であるという3重の「その実体は…」という設定。
息子には物語の途中まで、おでん屋をやっていることを隠しています。

次に依子さん演じる女性。父親(福田豊土さん)との確執を抱え、夜はキャバレーでホステスをやっています。
そのことは隠しているわけではないのだけど、登場シーンによって、2重の性格が与えられていますね。
最初、父を亡くした娘として登場するときの、後ろに束ねたシンプルな髪型と、ところどころ覗かせる邪険な質。
キャバレーの更衣室で、派手な化粧と服装に身を固めながら、父の事に対して神経質に振舞うところ。
そして酔っ払っておでん屋を訪れたとき、浜さんに諭されながら本当の気持ちを露わにしていくときに、
先述のとっても美しい横顔が見れるんです。
もう、このホップ、ステップ、ジャンプに乗って依子さんの変化に導いてもらえる快感。

それから3人目の「女性」は、梅垣義明さん演じるオカマちゃん。
ちゃんと鼻でピーナッツ飛ばすサービスもあります。
彼は、ふだんはどギツいメイクにドレスで女装してるんですが、田舎の母親が訪ねに来て、
そのときだけ板前ふうの格好に「男装」し、オカマを封印するんですね。
彼の活躍がけっこう大きいので、依子さんの役はストーリー上の重みは逸しているのですが、
浜さん、依子さん、梅ちゃんの3者がそれぞれにワケありで繰り広げる「変身」と「親子」のモチーフ、
これがまるで振り子の3つの球のように調子よくカチカチとぶつかりあって、ドラマ全体のリズムを織り成しています。

それがちょうどいい具合にカチカチと音を立てたところで、クライマックスの歩道橋です。
依子さんの泣き顔がスーッと入って、心地よく「お約束」に嵌めてもらえる、という次第。

というわけで、このドラマ、「ハネユミ」を漠然と妄想しつつ、
非「ハネユミ」な構成でヨーリー・マニアも乗せられる、なかなかニクい作品です。


1996年7月20日 21:00〜22:54
テレビ朝日系列「土曜ワイド劇場」枠にて放送
上岡一美 脚本
示野浩司 監督

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