『およう』(2002年)

前半の3シーンで依子さんが出演。
竹久夢二を主人公にした映画で、依子さんの役は、夢二が唯一籍を入れた女性、岸たまき。

映画が始まってすぐ、夢二から地方の旅館に呼び出されたたまきが、いきなり不義を疑われ、
髪をひっつかんで滝壺に顔を何度も押しつけられ、挙句のはては腕にナイフを突き立てられます。
なんと、このときすでに二人は離縁していたとのことで、なのに夢二の言い草は、
「不義をしたと言ってくれ!そして僕に謝ってくれ!お願いだ!」という分裂しかかった独善的なもの。 
それでもたまきは、わかりました、と滝壺の中で乞われるままに謝罪しますと、
「なんという女だ!」と逆上した夢二がブスリ。

このむちゃくちゃな修羅場に不思議な透明感を添えているのが、依子さんの存在感です。

次が夢二の家の場面で、若い娘と恋に落ちた夢二が、たまきに「彼女の親を説得しに、きみが行ってくれ」と
これまた無茶なことを頼む。 このとき、上がり框に心持ち斜めに腰かけている依子さんが色っぽい。

その次が、たまきが言われるままに、相手の娘の両親に会いに行き、夢二との交際を認めて欲しいと
談判するシーン。
あんた、自分がなにを言ってるのかわかってるのか!と問い詰められて、無言で視線をさ迷わせる場面です。

とにかく、身も心も夢二に捧げつくした女性の役なのですが、「芸のためなら」と耐えるニュアンスでもなく、
愛に盲目の女ごころでもない、男に魂を吸い取られた女の虚ろな色香を、独特の微熱で演じているのが、
かえって強い印象を残します。 

なにかに通じるものが…と思い当たったのが、『CURE』の女医・明子の空蝉感覚でした。
そういえば、たまきが滝壺で刺さったナイフを抜いて構えるところの空っぽな瞳は、明子がXXXをXXXするシーンに…

それと、末筆ですが、和装の依子さん、ナイスです。 
谷崎ものが似合いそう。


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