『俺たちも天使だ!』(1992)

タイトルから、SHOGUNのテーマ曲に乗って沖雅也探偵らが活躍する『俺たちは天使だ!』を思い出しますが、
この作品はあれとは無関係です。

今井啓毅生監督は、このすぐ後に『部屋とYシャツと私』でも依子さんと組まれてます。
ビデオのパッケージには、山田辰夫さんに次いで洞口依子さんがクレジットされていて、
『ザ・ギャンブラー』のようなものを想像したのですが、いざ始まると、洞口依子さんは「友情出演」!

スウィッチを「ワンカット出演」モード(あるんですよ、私のヨーリー・システムに)に切り替えたんですが、
実際には物語の舞台である香港にまで行っているし、「友情出演」というものは、素人には定義しにくいものが
あります。

ヤマタツ演ずるチャランポランを絵に描いたような型破り警官が、町内会の福引きで当てた香港旅行にやってきます。
ところがそこで出会った商売女に財布と拳銃と警察手帳の入ったバッグを盗まれ、それが殺人現場に落ちていた。
かくて彼はいろんな筋の人間から追われて香港の街を走り回る、というのがあらすじ。

依子さんの役はこの警官のフィアンセ。
家出していたところを彼にナンパされ、そのまま腐れ縁が続いているようす。
彼の危難を知らされても、「自業自得」と知らん顔です。
それが渋々香港まで助けにきたところ、やっぱりヤバい連中に狙われるハメになります。

依子さんの登場は、日本のヤマタツの家で洗濯をしている場面。
この家というのが、郊外のそのまた外れにありそうな一軒家。
絶対近くに個人所有の畑があって、夏の夜はヤマタツみたいな声の蛙が鳴いているんじゃないかってくらいの場所。
ここの狭い庭で、洗濯もの干し。
そこにヤマタツの後輩刑事(榊原利彦さん。Vシネの名脇役!)が訪ねて来て、
「先輩が困ってんですけど、僕は給料前で…フィアンセのあなたなら」とか頼んでも、
「知らないわよ〜。あたしだってお金ないもーん」などという脱力したやりとり。
そうだよな、「友情」だから、香港には行かないよな、ここで出番終わりかと思ってたら、香港までお出でになるんです!
ただし、香港の街を歩く依子さまは見れないです。 残念。

ヤマタツの泊まるホテルに着くと、ロビーで彼の部屋を尋ねますが、同行の榊原刑事の英語がひどくて通じません。
それに呆れていると、ヤマタツ氏がしゃあしゃあと登場。
特にどうということもない会話を交わして、エレベーターに一人で乗り込むと、敵とハチ合わせになって・・・
で、いったん出番は終了です。

彼女の役柄も、彼氏の危難を前にして、ほとんど無関係のような素振りなんですけど、
実際に、「私はこの映画の内容と無関係」といったつれなさを、依子さんがかもし出しているのがみどころ。
ヤマタツのファンのかたには言うまでもないことですけど、この作品はもう目一杯、例の「ヤマタツ節」満載。
いい声です。それに、作品のリズムを統御してるんじゃないかと思わせるくらい強烈なあの喋り。
それが全編にわたって爆竹のように鳴り響く中、洞口依子さんのこの「私は関係アリマセン」感の脱力具合がいいコントラストです。

カーチェイスがナンセンス極まりないオチを迎えたあと、悪漢の手篭めにされたかと心配されていた依子さんが
ヒョッコリ登場し、やっぱり全然関係なかったことを強烈にアピールしての脱力オチ。
このときの"Hey! What have you done to my car!"という依子さんのキレイな発音のセリフがやけに耳に残ります。

そのあとの大団円は、パーティーの場面でリラックスする依子さん。
打ち上げも兼ねてたんじゃないの?と思わせるくらい、「撤収スタンバイ」の空気がありありと伝わる、いいラストです。

私は黒沢監督の『勝手にしやがれ!!』シリーズでの羽田由美子役を偏愛気味に好きなんですが、
この『俺天』もシリーズ化して、ひたすら無関係な友情出演を繰り返してほしかったです。

しかし、私は何をこんなに楽しそうに語っているのでありましょうかっ!

1992年8月21日発売
ジャパンホームビデオ(JHV)

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