『おかえりなさい』(1993)

テレビ朝日系列の深夜「ネオドラマ」枠で、4夜にわたって放送された番組です。各回30分。

依子さんの役は歯科医の先生。
黒沢あすかさんら助手たちにも患者にも評判の、才色兼備のちょっとクールな女性です。
研究と仕事を優先しているためか、男っ気はあまりありませんが、
そのへんの話題や言い寄りのかわし方は板についたもの。モテます。

ある日、あすかさんが悪戯心から、彼氏(池田裕成さん)をけしかけ、
彼が依子先生を落とせるかどうか、3万円で賭けを持ちかけます。
最初は遊びのつもりで乗って、まんまと賭けに勝った彼氏ですが、本気になってしまうんです。
これがあすかさんには面白くない。で、自分の香水を彼のスーツに振りかけたり、
策を講じて彼を取り戻そうとするのですが、なびいた心はもはや取り戻せない。
いよいよ、2人の女性は対決せざるを得ない状況に陥っていくわけで、
え〜と、これもネタばらしはやめたほうがいいですね。

しかし、このオチはもう今では許可下りないだろうなぁ。
演出の瀧川治水さんは、こののちにTV版『アナザヘヴン』も担当されてます・・・
うぅむ、なるほど。料理が、お好きなのだな・・・

黒沢あすかさんの、これはかなり初期の出演作ではないでしょうか。
私は塚本晋也監督の『六月の蛇』で彼女を見て、なぜか「洞口依子」っぽいなぁと感じたんですが、これはそのさらに前。
しかも、もうこの頃からすごい存在感です。
最近の『嫌われ松子の一生』のときも良かったですし、やはり力のあるかたはそうやって出てくるものなんですね!

恋愛ものと思わせておいて、段々おそろしくなっていき、やがて猟奇的な要素も入るのですが、
このドラマは1993年ですから、まだ『CUREキュア』も『富江』もなかった頃です。
その段階で、洞口依子さんにここまで(最終的に)ヤバいキャラクターを当てたのは偉い。

全体的に見ると、黒沢あすかさんの役が押して押しまくって、依子さんは後半途中までずっと退いた印象を与えます。
だからラストのブラックな展開が強烈なわけで、注目すべきは、彼女が反撃に転じる意を決するところです。
私は、洞口依子さんのお顔の、右目の下から頬にかけて浮かぶ陰翳がとても好きなんですけど、これがですね、
このシーンでものすごくクッキリと浮かびます。
それまで表立ってなかったドス黒い感情が、突然ザバッと水から姿を現したかのようです。
カッコいいですねぇ。
それまで、都会で仕事にも恋愛にも、等身大の自然体で生きる魅力ある女性像を、わりと受身で表現していたのが、
そういった人間の奥にも潜むであろう猛毒を瞬間で噴出させるんです。
作り手もこれがほしかったんだろうなぁ。

そしてそこから先、大胆な省略が施されたあと、帰ってきた恋人を出迎える「おかえりなさい」の自然さと、そのコワさ!
何事もなかったかのように、まるで新妻のようにふるまうこの可愛さのコワさ!
そこから続く、料理から翌朝のゴミ出しという、極端に家庭的で所帯じみた描写の積み重ねから来る暗黒のユーモア。

蛇足ながら、途中でレニー・クラヴィッツのStand By My Womanが流れていました。
あと、テーマ曲のように繰り返し使われるこのレゲエ、誰だったかな? アスワド? とても耳なじみがあります。

おもしろいドラマでした。
ツミレが、おいしそうでしたねぇ。
おひとつ、いかが?


1993年6月7日〜10日 
23:25〜23:55
テレビ朝日系列にて放送
演出 瀧川 治水 
脚本 岸 きくみ

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