〜洞口依子 出演作品解説〜 |
『NO-FO-FON TIME』(ラジオ 2018年) |
まるで放課後の教室で、普段から気になっていた女の子と偶然居合わせて、音楽の話に花咲かせているような気分。
サザンオールスターズの関口和之さんがDJをつとめるラジオ番組『NO-FO-FON
TIME』(InterFM897)に洞口依子さんが出演された回を聴きながら、くすぐったいような甘酸っぱいような気持ちが沸き起こるのを抑えられませんでした。
決して長い時間ではありません。でも、校舎の外に暮れてゆく空が目に入って、「そろそろNHK-FMで『軽音楽をあなたに』が始まる時間だけど、一回くらい聞き逃しても、いいか」と自分に言い聞かせているみたいな、短いけれど心の中で何度も反芻したくなるような温かいひととき。そして、教室の前の廊下では、ふと通りかかった担任の関口先生がその様子を目を細めて見守ってくれている、と。
そんな妄想、いや、暇ジネーションをたくましくさせる、うれしい番組でした。
洞口さんが出演したのは番組の後半。しかし、その前半で流れる曲の数々と関口さんの語り口が穏やかに期待をたかめていきます。
この前半の選曲のトピックは”シンガーとしても活躍する女優さんたち”。シェールのJust Like
Jesse Jamesに始まって、イザベル・アジャーニのBeau oui comme Bowie (ボウイのように)、クロディーヌ・ロンジェのI Love
How You Love
Me、スカーレット・ヨハンソンとピート・ヨーンのRelator、ベット・ミドラーのRoseと、心なしか、いずれも洞口依子さんのイメージにもフンワリと結びつく心憎いセレクト。
中盤は関口さんがお気に入りの名盤を紹介する『NO FO FON
TRESURE』のコーナー。シャドウズのAll Dayがかかりました。シャドウズってこんな曲もやってたんだ!と意外に思う私は、まだまだヒヨっ子です。
そして空気があたたまったところで洞口さん登場の後半です。
関口さんと洞口さんがそれぞれに映画のサントラ盤から曲を選んでトランプのようにカードを出し合う趣向です。
もともとサザンオールスターズの大ファンだった洞口さんが映画デビューする前に関口さんと知り合い、やがて関口さんからウクレレの魅力を教わり、自身もウクレレ・ユニットのパイティティのメンバーとして音楽活動を始めるようになる。
そうした経緯がサラリと語られ、話題は洞口さんのサントラ熱に。「レコードをあまり買えなかった頃から、テレビで放映される映画をテープレコーダーで録音して、私家版のカセットを作っていました」という洞口さん。こういうエピソードには元”昭和の子供”として共感しますねぇ。簡単に手に入らないからこその思い入れの深さというか、”会えない時間が愛育てる”んですよね、ホントに。
先攻は洞口さん。まずは『気狂いピエロ』からMa ligne
de
chance(私の運命線)。いきなりドンピシャなところから来た!洞口さんは十代であの映画と出会ったときの感激を「頭にカミナリが落ちてきたようだった」と独特の言い回しで語ります。今までにも洞口さんの文章で何度となく読んできた事柄ではありますが、こうしてご本人の声のニュアンスで聞くと違いますよね。演技以外での洞口さんのおしゃべりを初めて聞いた、という方も中にはいらっしゃるかもしれません。どうですか?軽妙でしょう?もっと聞きたくなりますよね。どこかのラジオ局で『洞口依子 のら猫万華鏡』の番組をスタートしてほしいなぁ。
次は関口さんのセレクト。『アメリカン・グラフィティ』のサントラからバディ・ホリーのThat'll Be The
Dayです。ビートルズ以前の音楽への興味からこの映画を観た、と関口さん。洞口さんも「サントラ好きになるきっかけみたいなもの」と同意します。これも私家製のサントラ盤を作って聴いていたそうです。この映画は音楽と若者との関りがサブ・テーマでもあるので、そういうエピソードを知ると自然と胸が熱くなったりします。
洞口さんの次のセレクトは『M☆A☆S☆H』よりジョニー・マンデルのSuicide Is
Painless(もしもあの世にゆけたら)。私はこの曲はマニック・ストリート・プリーチャーズのカヴァーで知ったんですが、洞口さんにとっては本家の映画とガッチリ結びついているんですね。それにしても、『M☆A☆S☆H』を説明するのに劇中で点描されるTANNOYのスピーカーの話をするところが、じつにこう、洞口依子さんらしい!冒頭に書いた私の暇ジネーションに戻ると、こういう事を語る女の子には男の子は「・・・おぬし、かなりの使い手と見た・・・」と一目置きます。
関口さんのセレクトは『ブルー・ヴェルヴェット』からボビー・ヴィントンのBlue
Velvetなんですけど、有名なこのヴァージョンがサントラに入っていないという事実を、私は今まで知りませんでした!
関口さんは、この作品からさかのぼって『イレイザー・ヘッド』などのデヴィッド・リンチ作品を見るようになったそうです。たしかに、これが公開されるまでのリンチ監督は世間では『エレファントマン』の人でしたからね(まぁ、あの作品も見ようによっちゃ、アレなんですけどね・・・)。
そして、このコーナーの締めは洞口さんのセレクトで、自身の主演作『探偵事務所5 マクガフィン』からBon Appetit。
これは洞口さんのウクレレ・ユニット、パイティティのキラー・チューン。ここで、あの映画に主演することになった経緯が簡潔に説明されます。そこからも察せられるように、背景には命ひとつぶんの重みがズッシリと横たわっているのですが、パイティティのこの曲は明るくて洒脱で快活です。そこがいいんですよね。その重みと洒脱さのワケは、なにも説明されなくとも、伝わる人にはちゃんと伝わります。
それから、『気狂いピエロ』に始まって、アメ・グラ、M☆A☆S☆H、ブルー・ヴェルヴェットと続いた選曲が最後にこのパイティティに落ち着く、この流れの自然さ。この流れだけでも、”ゲスト=洞口依子”を納得させてしまいます。
最後に、お話の本筋と少し離れたところで印象に残った洞口さんの冗談を。
「私は、『プロポーズ大作戦』の『フィーリング・カップル5対5』のコーナーでは5番なんです」
5番、いいじゃないですか。私は毎回、5番の子がいちばん好きだったな。
洞口依子さんは、ビートルズの曲でいうと、Dear PrudenceとかIt's All Too
MuchとかLovely Ritaなんですよ。みんながLet It BeとかYesterdayとか言っているときに、「オレはDear
Prudenceが好きだな」とか、言いにくいんです。というか、あまりに自分の繊細な部分に触れるから、言いたくないんです(若いときは特にそう)。なにもLet It
Beが嫌いなわけではありません。でも、心の深いところで鳴っているのは、Dear Prudenceなんです。
今回のゲスト出演は、その「言えないな」「言いたくないな」という気持ちを、コチョコチョとくすぐられて、思わず顔がほころんでしまう、そんな放送でした。またこういう番組を聞きたいです。そして、いつか、洞口さんがお気に入りの音楽をかけたりゲストとお話しするラジオ番組というのも実現してほしい、と願うのであります。そのときは、ウルフマン依子に、お願いDJ!
2018年10月28日(日)20:00〜21:00 InterFM897で放送 出演 |