なで肩の狐・凶殺(1999)

コートにフードがあるかないかで、その人物の醸す印象は微妙にちがってきますね。

映画製作の現場に、ほんとに一億分の一くらいしか関わったことがないのでわからないのですが、
衣裳って、監督が決断するものなんですよね?
となると、この映画でも、依子さんの役、玲子のコートをどうするか、
衣裳担当のかたと渡辺武監督が話し合って、「フード有りでいこう」ということになったんでしょうね?
頭の中に思い描いたとき、依子さんには、フードつきの服を着せたくなるんじゃないでしょうか。

依子さんは、どっちも似合うと思うけど、私にとってもフード有りの印象が強いです。
『フローズン・ナイト』の赤頭巾ちゃんみたいなフードのせいかな、
いやいや、『カリスマ』の千鶴の強烈なインパクトのせいかもな。

フードって、どこか少女性とイメージが連携しているものだと思うし、
純粋さや庇護性とも関係しているような気がします。

『なで肩の狐』は、かつて狐と呼ばれて恐れられ、いまは引退している非情のヤクザ(椎名桔平さん)が、
昔の仲間、徳光(哀川翔さん)に頼まれて、組の内紛に巻き込まれてゆくストーリー。
依子さんの役は、引退した狐がバーテンをつとめる店のオーナー、玲子です。
小学生の娘がひとり。離婚歴あり。狐とは中学生の頃からの知り合いで、微妙にプラトニックな関係にあります。

物語が始まってすぐ、この店で、酔いつぶれた玲子をいさめる狐とのからみがあります。
閉店後の薄暗いバーのカウンター前でのこのやりとりで、玲子が日常生活に窒息感をおぼえ、
狐と逃避したがっていることがわかります。
ここでの依子さんは、呂律のまわらないセリフまわしで、ちょっと困ったダダっ子のようです。

それがラストになると、セピア色の光の海辺で、娘を見守りながら、狐が戻ってくるのを待っている姿には、
もはや子供っぽさはうかがえません。むしろ、男のわがままを許す母性的なものを感じさせます。
のですが、ここで依子さんの肩のフードが目立つのですね。これがある限り、どこかまだ少女。
そしてこの少女性に、ファンとしてどこか安らぎを感じてしまいます。

なによりもこのラストの依子さんの表情が美しいです。
波と砂浜と子供の平和な光景なんですが、依子さんの口元は、なにか割り切れない思いにつぐんでいるかのようです。
それと、目の下から頬にかけて浮かぶ翳り。
ファンにはおなじみの「あの」表情がラストに加えるニュアンスは大きいです。


製作=ミュージアム 配給=エクセレントフィルム
1999年4月1日公開
101分

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