『武蔵 MUSASHI・ 第20回 家康暗殺!』(2003)

2003年の大河ドラマの、5月18日放送ぶん。
武蔵は、当時まだ新之助だった今の海老蔵。
ちなみに、翌年の大河が『新選組!』で、その次が『義経』と、
こう並べると、見えてくる流れがあるのが興味深いです。

城太郎という少年がいます。
武蔵のあとを追うお通(米倉涼子さんでしたね!)と一緒に旅をしています。
演じているのは、これも今回見てびっくり、三浦春馬くんだったんですね。
最近では、『14才の母』や『恋空』で注目されています。
この頃は、少しTOKIOの山口くんを思わせる、キリリとした眉が印象的です。

城太郎は戦乱で母と引き離されて育っています。
お通も同様に、母親の顔を知りません。
だから、城太郎の母の健在を聞いて、会せなければと急ぎます。

武蔵に会いたいお通と、子供ながら「お通さんは俺が守る」と健気にふるまう城太郎、
そんな城太郎を実の弟のように思いながら、思えばこそ、この子のためにと別れを決意するお通。
いいですねぇ。私はめっきり涙腺が弱くなっていて、こういう設定だけで涙ぐんでしまう。

たどりついた村。ロケなんですね、これ。
木曽路の街道はずれという設定ですが、どこで撮ったのでしょう、物悲しくていい味です。

たみという女がどうも城太郎の母親らしい。
見やると、小さな家の表で作物を天日干ししている女の後ろ姿。
いぶかしげに振り向いた女、これが依子さんです。
質素な木綿地の服を着ているので、いつもの依子さんのイメージより地味に見えますが、
頭に巻いた藍色の布が、お洒落のアクセントに見えたりするのが、隠せないセンスでしょうか。

たみは城太郎に、戦のさなかに彼を連れて逃げることができなかった事を土下座して詫びます。
たみの新しい家族を前に、動揺を隠せない城太郎。事実を受け入れることができません。
依子さんが泣いて謝っている姿を見ると、「犯行を認めたか」と錯覚してしまうのですが、
そういえば、依子さんには時代劇で農家の女を演じる印象というのは、あまりないですね。

三浦くんがとてもいい表情をします。
思春期の入口にさしかかったあたりの男の子が見せる、青い翳りと言いますか、
それが無言で母親とお通との間を揺れ動いている心につながってます。
そうなると、化粧っ気の薄い依子さんの童顔が、自然の風景の中で際立って、
三浦くんのこの十代の陰翳とハモっているような錯覚に陥ります。そこがおもしろい。
母子というより、同級生的な感覚を共有しているような、
つまり、それだけだと役柄に合ってるとは思えないのだけど、楽しめるポイントです。

さらに後半、母と暮らすことを決意した城太郎が、旅立つお通に未練を見せ、
お通があえて厳しくそれを振り払う別れの場面があります。
ここで何度か依子さんのアップが出てきて、これがいいんです。
お通と城太郎のアップの切り替えしが続くんですが、
米倉涼子さんって、目がずっと同じ大きさで開いてるんですよ。あまり閉じない。
じつに明確な、はっきりとした表情です。三浦くんもそう。

その2人のやりとりに、一瞬挿まれる依子さんの表情が、待ってましたというくらい、
ゆくえが定かではない、あのザ・ヨーリーな視線なんですね。
物語の向かう場所とちがうところを一人だけ見ているようにうかがえます。
そんなこと考えて演技してるわけじゃないだろうけど。

また、この音楽がエンニオ・モリコーネなんですな。『1900年』のテーマを思わせます。
ユーロピアンであっても、モリコーネのイタリアーノな浪漫と依子さんって、いまいち結びつきません。
つまり、このシーンでの依子さんは、絵からも音からも、どこか漂った感じがあって、
やっぱり彼女はそういうときの表情に、抗し難い一瞬の魅力があります。

私なんかは、依子さんのこういう表情に心底弱いです。
なにか、憧れの先輩が授業中にぼんやり空を見ているのを、
向かいの校舎から「どこを見てらっしゃるのだろう」とドキドキするのに似てます。

よくこんなアホなことが書けるよなぁ、われながら。

(『1900年』の音楽は→ http://www.youtube.com/watch?v=nNrs1ZspVyc&feature=related 
5時間を超える映画でしたけど、高校生で体力あったし、むちゃくちゃ面白かったです。
このときのドミニク・サンダは、出てきた瞬間に悶死しそうになるほどの美女でした)

2003年5月18日 20:00〜20:45
NHKにて放送

尾崎充信 演出
鎌田敏夫 脚本
吉川英治 原作

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