『盲人探偵・松永礼太郎(5)逆恨み』(1995)


事故で視力を失った元刑事のカウンセラー・松永礼太郎(古谷一行)の活躍を描くシリーズ第5弾。
脚本は江戸川乱歩原作の「〜の美女」シリーズを10本近く手がけた宮川一郎氏。

ラジオのパーソナリティー(洞口依子)のたっての希望で、彼女の人生相談番組に出演した松永。
そこに、局内に爆弾をしかけたとの脅迫電話がかかる。
国家権力への抵抗を気取る犯人の要求(この段でオンエアされる曲がストーンズなのは・・・深読み?)は、
殺人事件に関与した疑いで取調べ中の不良少年2人を釈放すること。この捜査には松永が助言していた。
犯人との攻防のなかで、パーソナリティーの女性の意外な過去が浮かび上がってくる。

ここでの洞口依子さんは、落ち着いた口調と主張の強さにこの女性の人生経験の豊富さを表し、
いっぽうで、松永に向ける彼女の視線には、敬意とともにどこか救いを求めるような脆さも垣間見せる。
タフさに裏打ちされた知性と気性の強さが芯の部分で迷いぐらつくさまは、松永と並ぶといっそう対照的に見える。
そしてこのいくぶん落ち着かない感情の変化がこの作品での依子さんの魅力であり、
舞台劇的なラジオ局内での部分で細かな起伏となっている。
サスペンスドラマでありながら、コメディーの時のあっけらかんとした魅力に通じるものがあるのも面白い。

また、ドラマはラジオ局と浅草の下町を主な場面として切り替えながら進んでいくが、
彼女はほぼすべてのシーンをラジオ局内に固定されており、時間的にも依子さんには回想場面が用いられていない。
過去についての設定、そして2時間サスペンスとしては、彼女が下町にいる風景や回想がないのが意外に思う。
そのぶん、このヒロインを現在形のみでラジオ局という限られた枠の中で演じきる洞口依子さんの演技に見入ることができる。


1995年9月19日21:00〜22:54 日本テレビ「火曜サスペンス劇場」にて放送
吉川一義 演出
宮川一郎 脚本

出演作リストへ戻る 


←Home