『こちら森中探偵堂−月島迷コンビが走る!悲しき失踪調査』(2006)

ネタバレご注意!

2006年9月のお昼にオンエアされていますが、制作は2003年だったようです。
洞口依子さんの病弱な娘を演じる大後寿々花ちゃんは、
このあと『SAYURI』やドラマ『セクシー・ボイス・アンド・ロボ』で脚光を浴びました。
彼女がまだ小学生にしか見えないので、2003年頃が正しいのでしょうね。
たった3年でも、11歳と14歳は外見からしてちがうから年代特定に便利だなぁと、
相変わらずよくわからないところで感心しております。

このドラマ、彼女の役柄が物語中、非常に重要となっており、
難病を抱えた少女の手術とそのための渡航費用を捻出するため、
周りの大人が右往左往して殺人事件が起きてしまいます。
これを追うのが町の個人事務所の室井滋探偵と渡辺いっけい助手。
いっけいさんは、実はひとり娘を亡くして離婚したところで、
また関係者の中には母を轢き逃げで失った女の子も登場します。
さらにエンディングでは、スティーヴィー・ワンダーが娘に捧げた感動的な
Isn't She Lovelyが流れます。

依子さんの役は、長門裕之さんのボクシングジム会長の娘。
病弱の子供を抱え、夫にも失踪され、朝昼晩と休みなく働く母親です。
この中で、実際に職場での場面として描かれるのが、夜のキャバレーと、
朝の飲食店でのパート。
キャバレーではスリットの入ったチャイナ風のけばけばしいドレス姿で、
困惑しながらお客の相手をつとめ、いっぽう、
厨房では地味なエプロン姿で、やってきた探偵に時間を惜しみながら対応します。
これは好みの問題かもしれないし、嗜好の領域にも及びますが、
地味な依子さんのほうが、今回は印象に残りました。

というのも、全体的に父親たちの物語に仕上がっていて、
中心にあるはずの母娘から一枚壁を隔てたような感じで進行するのです。
寿々花ちゃんの実父である前夫(塩屋俊さん)が、病室に見舞う勇気がなくて
ドアを隔てて廊下に佇む様子も描かれます。
でもって、このお父さんたちが揃いも揃って甲斐性に欠けていて、
それが逆に父性愛の哀れなおかしみを強調させています。
とくに長門裕之さんが画面に出て来て、頭をうなだれて映るだけで、
見る者の気持ちがそこに持っていかれちゃうんですね。
そのためか、娘のために夜のお仕事で働く、お母さんとしての役柄上の印象より、
チェックの三角巾をかぶって黙々と洗いものに精を出す洞口依子さん、
の意外性に惹かれるわけです。

また、依子さんの容疑を匂わせるような思わせぶりなカットもほとんどなく、
ミステリーとしてもこの作品ではノーマークの登場人物として進みます。
クライマックスで前夫が犯行を告白する段では、彼女のはっきりとした驚きの顔がアップで映ります。
このアップがよくて、ここからラストにかけて、依子さんのアップがじつに美しいです。
依子さんの魅力(と私が勝手に思っている)である感情をぼやかして
視線を曖昧に漂わせる表情とは正反対ですが、
いちばんフォトジェニックに決まっていると思いました。
その意味では、前述の厨房での姿と併せて、サスペンスとしては珍しい、
プレーン味の依子さんに出会える作品でしょうね。

油谷誠至 演出
西岡琢也 脚本

2006年9月25日 15:04〜16:54
TBS 特選ミステリー劇場として放送


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