『未来創造堂 化粧筆を創ったニッポン人 高本和男』(2007)

『未来創造堂』は、ゲストがこだわりの物に対するちょっとした蘊蓄などをしゃべる番組で、
合間に「シアター創造堂」という、ミニドラマのコーナーがあります。
この回、化粧筆職人の高本和男さんを扱った「シアター」に洞口依子さんが出演し、
村杉蝉之介さん(大人計画。グループ魂の「バイトくん」!)演ずる高本さんがニューヨークまで
訪ねに行く、アメリカ在住のメイクアップ・アーティスト、安藤広美さんを演じています。

尺数にするとほんの10分程度。その中で、スタジオ内でメイクを施すシーン、
高本夫妻と会話するシーンが数分あるくらいです。

私が依子さんの表情でいちばん好きなものは、やや困ったように曇った視線を横にそらし、
不満げに唇を軽くとがらせるところ。
これ、サスペンスで、重要参考人の女が刑事に質問されて色っぽくとぼける場面や、
心を転覆させるような事態に陥った女が空洞の精神状態であらぬほうを見やる場面など、
けっこういろんなヴァリエーションで見ることができるんですよね。
ちなみに、これが深まったものが伝家の宝刀であらせられる放心演技です。
だいたいいつも、「あっ、このまま放心行くか?」などとワクワクしながら固唾を飲んで見守ってます。
「だいたいいつも」って、自分で書いてて意味不明ですが。

で、この番組でも、1箇所出ました!頂戴しました!
NYまで訪ねに来た高本夫妻が、この化粧筆の使い心地を試してください、と新作を手渡します。
「そういうことは、困るんですよ・・・」と断る安藤さんですが、押し切られる格好で、手にした筆先を見て、
「おや?」
ここで、上述のような表情が出ます。
何が「おや?」かというと、安藤さんはすでに、高本さん作の筆を持っていて、愛用されてたんですね。
「あなたがこの筆をお作りになったんですか!」と、アーティスト同士の交歓が描かれるわけです。

ところで、この番組が放送された2007年2月頃というと、けっこう、ハラハラしていたおぼえがあります。
これの少し前に、『混浴露天風呂連続殺人ファイナル』というのがあって、そちらでは、足にケガを負ったままの
出演だったんですよね。
プロとしての根性ということ以外に、(TVの画面を通してですが)悲痛な叫びのようなものが漏れてきそうな、
決して物事がうまく行っていないような、そんな心配と不安をいつも感じさせていたと思います。
そのときは本を書いてらっしゃるなんて思わなかったし、勝手な想像しかできなくて申しわけないのですが、
この人はどうなっちゃうのだろう、大丈夫なんだろうかと、気になってしょうがなかったです。

だから、たとえ数分の出演でも、演技をしている依子さんを見れるのはとても嬉しかった。
モデル役の外国人タレントと英語で会話している姿にニヤニヤしたり、
黒の衣裳が際立たせる首すじの美しさにハッとしたり、
カメラの前で動いている洞口依子さんを見れたこと、そしてとても綺麗だったことに安心して、
きっと大丈夫だと信じることにしたのです。
いま思うと単なるひとり合点で失笑ものなんですけど、あのときは本当にハラハラしていましたねぇ。

あのときの不安感からは、今現在の充実感は、想像するだけでもけっこう難しいことでした。
今だから言えることだけど。

この番組は、おそらく女優・洞口依子のキャリアの中では、ことさら顧みられる類のものではないかもしれません。
だけど私には忘れられない一作です。
これを見終わって、なにかできることはないかな、と思い巡らせたのをおぼえています。
なにかしたい、でもこんなに独りが絵になる女優さんは、手を振られることだって迷惑に思うのではないのか、
彼女の孤高の美しさを好ましく思う人たちからだって、反感を買うのではないのか。

さっきその日のブログを見返したら、私が書き込んでました。

「これは洞口依子ロックンロール黄金時代の幕開けだ!」

なにを根拠にそこまで言ったのか、もう忘れました。
どうせ大したことじゃなかったと思うんですが。
ま、もはやどうでもいいことですね。
依子さんはとっくにそこを通過してるし。


2007年2月2日 日本テレビ系列
23:00-23:30放送

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