「黒やぎ白やぎ presents RIZM」
ゲスト 日比谷カタン、洞口依子、プラハ@西麻布3.2.8(2010年4月23日)




ここ西麻布3.2.8がオープンしたのは、東京ロッカーズが魔都に軋轢の音を轟かせていた1978年というから驚きます。
そのお店で、ヒカシューの坂出雅海さんと佐藤正治さんによるユニット「黒やぎ白やぎ」(
http://www.myspace.com/kuroyagishiroyagi)の「RIZM」というイベントがあり、
ゲストの一人として洞口依子さんが出演する。
坂出さんがパイティティにサポートとして参加されたときから、そんなことが起きればいいな、でもそんな日は来るのか、
と夢の続きを願うような思いで待ち望んでいたことが、本当に起きた夜でした。  

魔都の雨の宵は、第1部、日比谷カタンさんのギター弾き語りで幕を明けました。
カタン氏を最初に知見したのは、YouTube動画で、お名前から人形作家のような人かと勝手に想像していたら、
「電気の武者」ならぬアコースティック・ウォリアーだったので仰天。
この日、初めて生で観て、すさまじいテクニックを持ちながら、それと拮抗するか凌ぐほど溢れる洪水のような音楽の詩魂に驚愕しました。
幽明隔たらぬようなその外見からは思いもつかないほどの独自のユーモア感覚にも降参です。
つかみどころがない、という言葉を真っ先に思いつきますが、身を翻すことで逃げるのではなく向き合うというのは、すごいことです。 
などと偉そうに物申してスミマセン。 でも、本当に参りました。

そして第2部が黒やぎ白やぎです。
これまた、名前だけ聞いて映画『黒猫白猫』を連想し、マヌーシュ・スウィングっぽいのかな、と思ってある日動画を見たんです。
そうしたら、硬質でかっこよく、しかも正体不明の怪しさを持つリズム・ミュージックだったのでした。
自由であることが足枷にならない自由さとでも言えばいいでしょうか(実際この音を浴びていると体が動き出す)、
聴いている人、観ている人に与える衝撃が、身を縮こまらせずに、昂揚させて開いてくれる。 そして謎がいっぱいあって、ユーモアがある。
いやぁ、ふっ飛ばされました。 

それにしてもの、「やぎ」。
4つの胃を持ってなんでも反芻して吸収してしまい、タフな生活環境にも強いと伝え聞く山羊です。
この第2部で、黒と白に2つ加えるように登場したのが、洞口依子さんと踊り子プラハさん。
依子さんは、もちろんパイティティでウクレレを弾きかつ歌う姿をすでに知っているとはいえ、「黒やぎ白やぎ+洞口依子」から出てくる音の想像がつかない。
私の貧しい想像力では、なんとなくですがスクリームとか…そんなレベルの絵しか思い描けない。

ぜんぜん違いました。 堂々うたいました。 小島麻由美の「甘い恋」「エレクトラ」「わいわいわい」。
(「エレクトラ」を演奏する黒やぎ白やぎ+洞口依子、そして舞うプラハ→YouTube
マイクの前に立つ姿に、あぁこの人は表現をする人なんだ、そこに向かう人なんだと感じ入るほかない力があって、それに吸い込まれます。
パイティティとは異なるリズムのうねりがあります。 それが屹立するように、ただでさえ作家性が濃厚な曲の影を大きく映します。
そこへ彼女が飛び込んでいくときに、火に火を注いで大きく表情を変えてゆく音。
そしてその熱に揉まれるように歌う所作のひとつひとつが曲にもたらすあやしい影と輝き。
歌い終えて、「パッションがほしい」という彼女の呟きにエッと虚を衝かれる間もなく、そのまま言葉と演奏のフリーな交錯へ突入してゆくインプロも、
温度がクルクルと高低を繰り返す中を遠くに連れ去られていきます。 

プラハさんの舞は、これまで渋谷のデロリや代々木公園の夜の帳の中、そしてJZBRATの広いステージで拝見したことがありますが、
それらより小さな舞台でどんなふうに見せてくれるんだろうと思っていたら、魅せられました。
依子さんの参加で色が変わったかのような空気を、またさらに渦をかき回すように現れます。
なんだろう、フッと微かに動くと、その動きが光の轍を残してこちらの目線からすり抜けていくかのよう。
依子さんはプラハさんと2人のことを「赤猫と青猫」と冗談ぽく言っていたけれど、プラハさんが加わって4つの胃袋となった「山羊のココロのスープ」は、
3Dがどうしたと騒いでいるご時世に「なに言ってんの、4Dでしょう」と遥か先を行っているようでした。
さらにこの夜は、最後にプラハさんが依子さんに妖しく近づいて衣装をスルッと脱がせると、プラズマティックスか、今ならレディ・ガ・ガというべきか、
下には要所要所を押さえただけの全身タイツ。
これは予定にはなかったことなのか、依子さんも笑いながら、それでも堂々と「わいわいわい」を熱唱していました。
その笑顔が忘れられません(タイツだけじゃないですよ)。

そして最後の第3部は日比谷カタン氏が再び登場しての黒やぎ白やぎとのセッション。
カタン氏のカッティング、なぜあのような音が出せるのか…
この2組が一緒に音を出すと、ワタシの脳はどうなるんだろうという心配も若干ありましたが、ド迫力の演奏に圧倒されながらも、
感覚のツボを心地よく刺激されるようでそれはとてもしなやかに響きました。
ほかのお客さんも、みんな体を前に乗り出すようにして凝視していましたが、ホントに楽しそうでしたね。 

大満足。 行ってよかった!と心から思えたライヴでした。 魔都サイコー。


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