石田英範&坂出雅海@Annie's Cafe、京都(チュウソツシスターズLive)2018年8月17日

 深草の町は京都市の伏見区にありまして、伏見稲荷大社にも近いんですけど、はしだのりひこさんと加藤和彦さん、それに村八分のチャー坊が青春時代を過ごした土地でもあります。
 そんな、日本のロックの胎動期とも縁の深いこの町の地下にあるAnnie's Cafeで、お盆明けの夜に、予想もしなかったイベントが開かれました。

 静岡で活動する女性デュオ、チュウソツシスターズのライヴです。
 このイベントに参加したパフォーマーは下の写真のとおりで、パイティティから石田英範さんと坂出雅海さん(ヒカシュー、黒やぎ白やぎ)が出演されるとあって、私も駆けつけました。当日はここに、急遽、マジカル・パワー・マコさんが参加することになって、きっと自分はお稲荷さんの狐さまに化かされているにちがいないと思いながら出かけました。


 イベント全体を通して、電子音とベース・ギターのフリーなセッションも、謎めいた物語をリーディング・パフォーマンスと音楽とで展開していく演劇も、マコさんの自由そのもののギターとアジテーションも、映像とサウンドの迷宮のようなコラボレーションも、誰一人として同じことをやっていない、そのことに私は感激しました。

 中でもチュウソツシスターズ、これは凄かった。代わる代わるにドラムとベースを持ち替え(一人はベースとドラムを同時に演奏!)、そこに様々な音を加えていきながら、でも全然ギミックではありません。赤痢がCANとソフト・マシーンを同時に演奏しているかのようなフリーキーな音を出しつつ、彼女たちは自然体にポップで、自然体にプログレッシヴ。最後にバー・カウンターの前に寝そべって、「死んだ男の残したものは」をアカペラで歌って終わったときなんか、鳥肌が立ちました。すぐにでも、国内と言わず海外に発信してほしい音です。

 そんなイベントの空気は石田さんと坂出さんがステージに上がった頃には熟成されていて、石田さんが長きにわたって開発したという”ヴィデオ・シンセサイザー”なる秘密兵器がラップトップから送り出す、微妙に崩れた線の映像が壁面に映し出された時点で、「あ、なんかヤバイのが来る・・・」との予感はありました。

 実際、ヤバかったです。線がグネグネとマーブル化したかと思うと、真ん中に空洞を持つ異様に幾何学的なパターンに変わったり、それが曼荼羅のような模様を描いて壁面を覆い、これをじっと見ていたら確実に頭がおかしくなるな、との恐怖すらおぼえました。それでいて、全部に思わず笑みを浮かべてしまいそうなユーモアがにじんでいて、自分でもなんだかわからないんだけど、何を見ても面白くて笑ってしまう・・・って、なにについての実況なんでしょうか。

 それでまた、坂出さんが最初のうちは映像を見ながらアンビエントな音を交錯させていたので、「そうだよな、何が映っているか確認が必要だよな」と思っていたら、途中から坂出さん、映像に顔を向けずに音を出してはるんですよ。
 私はてっきり手元にもモニターがあるんだと思い込もうとしたんですが(そう思わないと説明つかない)、どうやらそうじゃないとわかった時の戦慄。そして、いつの間にか音がテープ逆回転みたいなシュッシュッというノイズに変わっていって、それが妖怪的な圧迫を増してクライマックスを成していきました。

 「あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間の中に入って行くのです。」と囁かれているみたいでした。終わってから、お二人それぞれに「どうやって、ああいうことが出来るんですか?」と尋ねたんですが、いたってフラットな答えしか得られませんでした・・・。

 あらためて、こういう人たちがパイティティの音楽を作っているんだと実感したイベントでした。
 それにしても、なんという夜だったんでしょう。帰り道、感覚が鋭敏になってしまって、龍谷大学の校舎の輪郭が徐々に歪んで渦を巻いていくような錯覚にとらわれました。


イベント/インタビュー記事のインデックス

洞口日和