〜洞口依子 出演作品解説〜

『コールドケース2-真実の扉-』第6話「バブル」』(2018年)

ファンというのはミーハーなもので、お目当ての俳優さんが出ているドラマや映画を見ているときに、「以前共演したあの人と、今度はこんな役で一緒に出ている〜」とか、「このシチュエーションは前のあの作品にもあったけど、ニュアンスが違うものだなぁ」などと、ストーリーとは関係のないところで独自の楽しみを見つけてはしゃいだりします。本筋からあまりにも離れすぎると、作っている方々にはウザッタイだけかもしれないので自重したいところです。
けれども、この『コールドケース2-真実の扉-』の第6話にあたる「バブル」に関しては、洞口依子さんのファンとしてどうしてもそれを抑えきれないポイントが多々ありました。

この「バブル」のエピソード、作品としてとてもよく出来ているし、心にしみます。 
お話は30年ぶりにシャバに戻ったヤクザの復讐譚で、それ自体には特に目新しさはありません。奥田瑛二さん演ずる男がバブル景気の頃に幅を利かせていた組員で、鉄砲玉になって敵対する組の幹部を射殺して服役。その出所を義兄弟の金田明夫さんが出迎えるところからドラマは始まります。
街並みは変り、車の流行や情報ツールも変わり、組織もすっかり様変わりしている。でも彼の中には、非業の死をとげた恋人のクラブ歌手の復讐をはたすという変わらない目的がありました。
奥田さんと金田さんの二人のやりとりが、やるせない。まるでリノ・ヴァンチュラのような憂いを背中ににじませて、不自由になった体をひきずりながら歩く奥田さんと、それを気遣いながらも明るく親しみをもって接する金田さんの、歳月の重みを実感させながらも気の置けない、繋がりの確かさ。これがあるから、ラストは街のネオンがせつない。
内片輝さんが演出を手掛けた洞口さんの出演ドラマには『刑事殺し 完結編』(2009年)と『天使が消えていく』(2010年)があって、立ち姿のシルエットを活かしたスタイリッシュな絵作りが、今作では人物の哀しみに迫っていきます。

洞口さんの役は、バブル期には主人公がかつて愛した女が歌っていたクラブのチーママだった女。そして、30年の時をへた現在の場面では、覚せい剤で逮捕されて拘留されています。
最初にバブル期のクラブのシーンで登場したとき、思わず「あれっ?」と声をもらしてしまいました。その佇まいというか視線の婀娜っぽさとソツのないチーママっぷりが、20年くらい前にサスペンス・ドラマで見た洞口さんそのもの。これってホントに2018年の洞口さん?と確かめたくなるくらいに、なんというかこう、”時をかける洞口依子”に遭遇したかのような不思議な気分に陥りました。
で、物語が進むにつれて、その”時かけ”がもっと凄くなっていって、現在の場面では老けメイクに声も低く、なりふりも構わず、一挙手一投足が女怪と呼ぶにふさわしいフテブテしさを、取調室の暗闇にポッカリと浮かび上がらせるのです。
そこで過去の”その後”として語られるタクシーの中の場面では、水崎綾女さん演じるクラブ歌手に奥田さんが鉄砲玉となった事件の真相を吹き込み、車内を一瞬にしてドス黒い空気に包みこみます。
さらなる一撃は、ぞの水崎さんが高校生の頃にヤクザのボスの愛人に迎えられる回想シーン。怯えた表情で連れてこられた水崎さんを眺める洞口さんの険のある目つき。これはもう、どこからどう見ても、『マルサの女2』で洞口さんが親の借金の担保に囲われるくだりの、時空をこえた反転!

そんなふうに「!」まで付けてはしゃぐのは、オマエが洞口依子のファンだからじゃないか、と言われれば、それは至極ごもっともです。
しかし、この作品に関しては、こうした楽しみかたを誘う道筋がドラマ自体にちゃんと組みこまれていると私は思います。

まず、この作品での洞口さんの存在の大きさ。バブル期と現在の変化を一人の役者が通して演じているのは洞口さんだけなんです。これが意味するのは何なのか。

洞口さんの役柄が物語の重要なカギを握っていること。というか、いちばんワルいやつですよね。すべての悲劇を引き起こしたのは、彼女の嫉妬なんだから。
で、その嫉妬の神経を削るような鋭さが、覚せい剤中毒者となった現在のフテブテしさに繋がっている。この役は、男たちのように年輪とともに枯れた味わいを醸し出しちゃダメなんですね。すごくいい話の中にあって、そっちになびかない、ままならぬ存在である彼女がいることで、このストーリーは一層美しく哀しい物語になったんだと思います。あの取調室での光と影の異様なバランスを取っても、演出家が洞口さんを通じて悲劇の中に盛り込もうとしたものはかなり大きいはずです。

もうひとつは、この作品が歳月というものをテーマの一つに内包していて、そこに心憎いまでにピタリとハマった俳優さんたちの肉体的な実在感が、見る者に自然と30年の歳月を共有している気分にさせることです。
1時間枠のワン・エピソードでありながら、「恋人よ」や「ラヴ・イズ・オーヴァー」などの曲も効果的に用いて、奥田さんや金田さん、洞口さんや水崎さんたちの物語が簡潔にして濃やかに描かれています。その濃やかさのなかから、演じている俳優さんたちの30年ぶんの重みが時々こぼれてくるんです。だから、私なんかはバブルのチーママを演じる洞口さんを見てハッとするし、『マルサの女2』を幻視して盛り上がるし、取調室では今後の作品でどんな洞口さんに出会えるのかを期待して高まります。
たぶん、奥田さんや金田さんについても、同じような面から、それぞれの感慨を抱く人が多いのではないでしょうか。作品自体が味わい深いうえに、こうしたファンの感慨をもくすぐってくれるのです。次の機会があればぜひお見逃しなく。

2018年11月17日(土)22:00〜22:54 WOWOWプライムで放送
出演
三浦友和 吉田羊 永山絢斗 光石研 滝藤賢一
奥田瑛二 金田明夫 水崎綾女 毎熊克哉 遠藤雄弥 村上新悟 矢島健一 石橋蓮司 洞口依子 

脚本 瀧本智行
監督 内片輝



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洞口日和