『ボイズンガルズ 第23回 ゲスト・洞口依子』(1994)

筋肉少女帯のことを知ったのはたぶん85年か86年で、
大槻ケンジ氏は当時まだ「大槻モヨコ」と名乗っていました。
モヨコといえば夢野久作の『ドグラマグラ』に出てくる少女であって、
音を聴けば、江戸川乱歩や稲垣足穂や天井桟敷に中原中也が飛び出す世界。
勝手に「あ、仲間だ」と思い込んでしまいました。

そんなわけで彼がホスト役をつとめた日曜朝のトーク番組『ボイガル』、
洞口依子さんがゲスト出演したこの回を、もう15年も前のことなのに、
現在のわがことのように見入ってしまう私でした。

この番組は、おもにゲストの思春期にまつわるエピソードを聞きながら、
たぶんに特殊な嗜好の少年であったにちがいないオーケンが、
それに寄り添ってもおもしろいし、乖離してもおかしいという、
彼ならではの絶妙な距離のとりかたで接するのがみどころでした。

で、洞口依子さんとあれば、これはもうかなり至近距離から語り合うかと思いきや、
そうでもないのがとっても興味深く、笑えます。

依子さんの開陳する少女時代の自画像というのは、
暗い子だった」
「アタシってなんで生きてるんだろ、と思っていた」
「空想が好きな子だった」
「団体行動が嫌いだった

という、あの当時でいうところの「ネクラ」(久しぶりに活字にすると、ホントに古臭いな、この言葉!)、
あるいは「ヘンタイよいこ」としての偏差値の高いもの。

マンガを描くのが好きだったという依子さんに、当時よく描いていた絵を再現してもらうと、
「空想の中で、アタシがいたずらをするときに、Miss Xというキャラになりすましていた」と、
ハロウィンのカボチャをあしらった絵柄を披露します。
オーケンは、しかし、さすがにこういう話にも退かない。
むしろ、自分と同類項をみつけて安心していくのが伝わってきます。

GOROでのヌード・グラビアは全部頭の中に刷り込まれている、
自分と同世代(1966年生まれ)の男なら「洞口依子」と聞くだけで、
「おっ!、お〜っ!」という反応があるはず、と語るオーケン。

「美少女だったじゃないですか!モテたんでしょう?」
「美少女じゃない。モテなかった。暗いっていじめられたこともあった。
中学のときもほとんど男子とは口をきかなかったけど、
変な、マニアックな男の子とは仲良かったね。
だから、大槻くんとは、同級生ならきっと仲良しになってたと思うよ。
同じにおいを感じる


思春期のDTコンプレックスがトラウマのオーケンのような男には、
頭が『スキャナーズ』みたいに吹っ飛んじゃいそうなお言葉です。

だけど、オーケンはそれに乗っからない。
「いやあ!もう、あの頃はさ、女の子に話しかけられただけで、
(眉間に皺を寄せ、前を凝視して)固まっちゃってたから!」
「え〜、でも、たとえばアタシが電話してさ、
『なんだまた洞口かよ〜、おまえだけだよな、電話してくる女子はぁ』
みたいにグチったりするんだよ、きっと」
「いやいや!もう、電話なんかかかってきたら、それだけで、
『コイツ、オレに気があるんじゃないか!』って悶々としてたと思う!」

洞口依子に「同じ匂いを感じる」って言われてるわけだからね、
相好崩して「あぁ、きっと仲良しになれたよねぇ!映画とか一緒に行ったりして」
とでも言えるだろうに、そうは持っていかない、ここ!
ここですよ、ここを譲らないこのDTコンプレックスの矜持をですな、わかっていただきたい。
そして、ここで一回距離をとることで、逆に依子さんに安心感を与えているようにも思えます。

この番組の中盤には、オーケンがマニアックなツボのあるビデオを紹介するコーナーがあって、
この回で取りあげるのは、リック・ウェイクマン(イエスのキーボードの人です)のライヴ・ビデオ。
オーケンのツボというのが、ステージでときどきナレーターが出てくるんだけど、
そのオッサンがなぜか「エマニエル夫人」みたいな籐椅子に座っている、という爆笑もの。
もちろん、その図柄だけでもおかしいんですが、それをリック・ウェイクマンのビデオで観る、
このどうしようもないスターレスな笑いのツボは、依子さんなら当たり前にわかるはず。

だからこそ、
「とか言って、初恋の相手はスポーツマンだったりしたんじゃないすか?」のイジケた問いに、
「うん、サッカー部の男の子だった」と答える依子さんも残酷でおかしいし、、
「やっぱり!でもそういうもんなんだよなぁ」としみじみ現実をかみしめるオーケンの姿に、
私はおもいきり共感をおぼえるのでした。
「だって、普通の恋愛をしたいと思ったのよ、その頃は!人並みの恋愛にあこがれて」
そりゃそうだよ、マニアックな男の子だって、可愛い女の子に恋したりするわけだし。

はからずも、大槻ケンジ氏に、80年代に思春期を過ごしたサブカル系男子の代表として
洞口依子さんに相対していただいたような、そんな達成感にも似た充実をおぼえる番組でした。

ところで、この回の人生相談コーナーで、「同性を好きになっちゃった女子高生」からのハガキに
親身にVTRで答えるのがユッスー・ンドゥール!



1994年9月11日(日)9:30〜10:00 
朝日放送 制作
テレビ朝日系列にて放送

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