『弁護士芸者のお座敷事件簿5』(2000)

これもネタバレの文章なので、ご注意ください。

藤田朋子さんの弁護士と、芸者置屋のおかあさんでもある朝丘雪路さんの
母娘が活躍する2時間サスペンスです。
朝丘さんは入浴シーンや踊りのお稽古をつける場面もあったりで、
舞踊指導もちゃんと深水流がクレジットされています(朝丘さんは深水流の家元)。
変なところで感心してしまいました。

藤田朋子さんが、写真家の鶴見辰吾さんの民事訴訟の依頼を受けた矢先、
相手の男が何者かによって殺害されます。
依頼人をかばってその謎を追ううち、レストラン・チェーンの最大手がからむ事件の全貌が
明らかになってゆき、第2第3の殺人が起こるのがおもな筋立て。

洞口依子さんの役は、この外食産業の会社社長、石橋蓮司さんの夫人。
最初のシーンは、新メニューの重役試食会です。
パスタなどを口にして、「これなら青山あたりのお店で出しても遜色ないわ!」と絶賛すると、
「そんなもの、実際は冷凍食品を使っておけばいいんだよ!」と社長にピシャリ。
じつに、オンエア時(2000年)には得られなかった感慨を、今となってはおぼえてしまう台詞ですね。

その会議の直後、社長と部長とともに、藤田弁護士に出くわします。
事件との関連の有無を問われたとき、はじめて彼女が社長夫人であることが明らかになりますが、
何かを隠しているというよりは耐えているような表情、さらに弁護士に暗黙の助けを求めているような視線。
これが後々の展開に効いてきます。

長野県上山田(かみやまだ)の空地で新店舗のための地鎮祭が行われます。
風に吹き晒されての何もない空地で、洞口依子さんや石橋蓮司さんが立っている光景は、
なにもないぶん、やけに印象に残ります。
上山田町は2003年に統合されて千曲市となったそうなので、このドラマはけっこう貴重かも。
この場面でようやく、依子さんが副社長であることが説明され、妻をお飾りのように利用しようとする社長と、
それに不満をつのらせている彼女の心情が、ごく自然に伝わってきます。

私は2時間サスペンスで、ご当地の名所旧蹟にたたずんでいる依子さんを見るのが好きです。
とくに寺社の境内に独りで映っている姿がよいと思います。
ぷいといなくなった依子さんがたたずむ次の場面は、これはもしかして「あじさい寺」として知られる智識寺かな?
ここの御堂をバックに、物思いに沈む表情と、光沢を抑えたワインカラーのビロード地のドレスという、
この取り合わせで絵になるから、2時間サスペンスでも安定した人気があるのでしょう。

社長に命じられて彼女を探しに来た部長が、辺りに人がいないのをいいことに言い寄ってきます。
そこに合気道の腕におぼえのある藤田弁護士が駆けつけるところで、依子さんが緊張と安堵が相半ばしながら、
なおかつあさっての方向を見ているような、なんとも落ち着かない不思議な表情を浮かべます。
燈籠越しの、一瞬ですよ!(笑) 藤田朋子さんが声をかける瞬間です。
あまり気にすると、吸い込まれて帰って来れなくなったりするので、お気をつけください。
なんでそんなところが引っかかるのか、我ながら呆れますが。

調査が進むうち、最初の依頼人の鶴見辰吾氏がじつは犯人で、社長夫人の愛人であることがわかります。
彼女も副社長とは名ばかり、社長の外交に利用されているだけの存在に孤独を募らせての共犯だったんですが、
凶行場面の再現でオドオドしながら実行するさまを見ていると、会社の経営は向いてないなぁと思います。
「ほとぼりが冷めるまで、半年は逢わないようにしよう」と言う男に、
「半年も逢えないの?」とすがるように尋ねるところにも、この女性の甘さがのぞいていました。

こういう、したたかさを感じさせない役も、じつは2時間サスペンスでの依子さんには意外にありますよね。
世間知らずで気合いの詰めが甘い犯罪者、とでも言いますか。
この役でも、自分のことを認めてもらいたいのだけど、決定的な自信がない、そんな人物の弱さが出ていて、
それが先述の境内の場面などでは、根無し草の孤独感を漂わせたりするんですね。
そういうところがファンのツボをくすぐってくれます。

あと、これはドラマとは関係ないんですけど、
藤田朋子さんとポール・マッカートニーの話など、されたんでしょうか???
じつは、見ているあいだじゅう、それがいちばん気になってました!


2000年1月24日 21:00〜22:54
TBS系 「月曜ドラマスペシャル」枠にて放送

岡本 弘 監督
田上 雄 脚本
和久 峻三 原作    

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